研究課題/領域番号 |
17H06745
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
清水 優樹 名古屋大学, 医学部附属病院, 病院助教 (90801887)
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研究期間 (年度) |
2017-08-25 – 2019-03-31
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キーワード | リンパ管新生 / リンパ浮腫 / 硫化水素 / DATS |
研究実績の概要 |
我が国でも乳がんをはじめとした術後のリンパ浮腫で悩まされる患者の存在は多く、手術による根治療法の拡大と共に、今後はさらに多くの方が発症することが予想される。これらリンパ浮腫に対する対策は現在のところリンパマッサージや弾性ストッキングなどの理学療法が中心であり、有効な根本的治療は存在していない。よって、難治性リンパ浮腫に対する「新規治療法の開発」が求められている。 近年、体内に微量に存在する「硫化水素」(H2S)は一酸化窒素(NO)、一酸化炭素(CO)と同様に生体内では生理的にも病理的にも作用を及ぼす重要な分子であることが知られ、第3のガス伝達物質として注目されている。申請者らは、これまで①H2Sの「血管新生促進作用」による重症虚血肢の血流回復効果、②H2Sの虚血再還流障害心臟モデルにおける「心保護効果」、そして③H2Sの高脂肪食負荷モデルにおける「ERストレス軽減効果」を、それぞれ報告してきた。今回、発生学的にも性質的にも血管内皮細胞と類似する「リンパ管内皮細胞」に着目し、硫化水素によるリンパ管形成促進効果の有無を検討した。さらには硫化水素を用いたリンパ浮腫に対する治療的リンパ管新生の可能性についても検討した。 マウス尾部リンパ浮腫モデルを作成し、硫化水素ドナーであるdiallyl trisulfide (DATS)をマウスに投与すると、局所のリンパ管新生を伴ってリンパ浮腫が改善することを突き止めた。また、これらの作用機序として、硫化水素による直接作用なのか否かを検討する目的で、リンパ管内皮細胞を用いDATSを添加することにより、管腔形成能・増殖能を検討すると、容量依存性にそれらが増強することが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究課題2として計画した「治療的リンパ管新生の新たな標的分子の探求」においては、第3のガス伝達物質として近年注目される”硫化水素”がリンパ管新生を増強する作用を有することが平成29年度の本研究から明らかとなった。コントロール群に比し、DATS投与群では2週間後より明らかなリンパ浮腫改善が認められ、第28病日における局所の新生リンパ管密度(LYVE1およびpodoplaninの2重免疫染色法で同定した)もDATS投与により増加した。また、その作用機序に関しても、リンパ管内皮細胞を用いたvitroの実験結果から次第に明らかとなってきており、次年度も引き続き計画に従っって、詳細にその分子メカニズムを検討していく予定である。 研究課題1としての「リンパ管新生の基礎的研究」で計画した、「性差とリンパ管新生」研究においては、パラバイオーシスモデルを作成・使用に取りかかったが、モデル作成の煩雑性・実験使用可能となるまで時間を要してしまう事などの問題から、まずはメスマウスそのものに尾部リンパ浮腫モデルを作成し、その後のリンパ浮腫改善効果をオス尾部リンパ浮腫モデルと比較検討した。これらの結果からは、メスマウスにおけるリンパ浮腫改善効果やリンパ管新生促進効果はオスマウスのそれと比して、明らかな優位性は認められなかった。 しかしながら、血管新生に関しては、女性ホルモン(エストロゲンなど)が血管新生促進効果を有するという報告があるため、「リンパ管新生においても女性ホルモンはリンパ新生を促進させる作用がある」という仮説のもと、当初の実験計画を見直し、評価系を変更して別のアプローチによる検討により本仮説の最終的な結論を導きたいと考える。
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今後の研究の推進方策 |
課題2の「硫化水素による治療的リンパ管新生」の研究に関しては、引き続き詳細な分子メカニズムの検討を進めていく。まずは、シグナルの関与を確定的にする目的で阻害実験による検証を行う。vitroの実験としてリンパ管内皮細胞にWortmanninあるいはL-NAME投与が、DATS添加によるリンパ管形成能促進作用(増殖能、遊走能、管腔形成能)をそれぞれキャンセルさせうるかを確認する(WST-1 proliferation assay, Boyden chamber Migration assay, Tube formation assayを用いる)。最後にVivoリンパ浮腫モデルにおいて、AktあるいはeNOSの阻害にてDATSのリンパ管新生促進効果が減弱するかを検証する。阻害実験として2つの実験系(薬物的阻害、遺伝的阻害)を用いてこれらを検証する。薬物的阻害実験にはWortmanninおよびL-NAME腹腔内投与を、遺伝学的阻害実験にはAkt-1ヘテロノックアウトマウス, eNOSノックアウトマウスをそれぞれ用いて評価する予定である。 研究課題1に関しては、平成29年度に施行したvivoの実験では個体差などの要因にて詳細な評価が難しいことから、vitroでの実験を先行させることとする。これまで血管新生研究で血管新生促進効果の報告があるエストロゲンを用いて、リンパ管内皮細胞に直接作用させた際に、リンパ管形成促進作用(増殖能、遊走能、管腔形成能)を有するのか否かを、上記と同じ評価系で検討する。これらからポジティブの結果が得られた場合、マウスにエストロゲンを全身投与することにより、リンパ浮腫モデルにおけるリンパ管新生効果があるかを検討する。
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