研究課題
我が国でも乳がんをはじめとした術後のリンパ浮腫で悩まされる患者の存在は多く、これら癌に対しての手術療法の拡大やその後の生命予後の延長と共に、今後はさらに多くの方がリンパ浮腫を発症することが予想される。しかしながら、リンパ浮腫に対する対策は現在のところリンパマッサージや弾性ストッキングなどの理学療法が中心であり、有効な根本的治療は存在していない。近年、体内に微量に存在する「硫化水素」(H2S)は一酸化窒素(NO)、一酸化炭素(CO)と同様に生体内では生理的にも病理的にも作用を及ぼす重要な分子であることが知られ、第3のガス伝達物質として注目されている。研究代表者らは、これまで①H2Sの「血管新生促進作用」による重症虚血肢の血流回復効果、②H2Sの虚血再還流障害心臟モデルにおける「心保護効果」、そして③H2Sの高脂肪食負荷モデルにおける「ERストレス軽減効果」を、それぞれ報告してきた。今回、発生学的にも性質的にも血管内皮細胞と類似する「リンパ管内皮細胞」に着目し、硫化水素によるリンパ管形成促進効果の有無を検討した。さらには硫化水素を用いたリンパ浮腫に対するリンパ管新生療法の可能性について検討した。マウス尾部リンパ浮腫モデルを作成し、硫化水素ドナーであるdiallyl trisulfide (DATS)をマウスに投与すると、局所のリンパ管新生を伴ってリンパ浮腫が改善することを突き止めた。さらに、これらの作用機序として、硫化水素による直接作用なのか否かを検討する目的で、リンパ管内皮細胞を用いDATSを添加することにより、管腔形成能・増殖能を検討すると、容量依存性にそれらが増強することが明らかとなった。以上の結果からは、硫化水素はリンパ管新生を促し、リンパ浮腫疾患モデルにおいて治療的リンパ管新生につながる可能性が示唆された。
平成30年度が最終年度であるため、記入しない。
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