人口の1%以上が罹患する自閉スペクトラム症と統合失調症は、青年期までに顕在化して長期の臨床経過をたどる。ゆえに患者家族の心理的負担や社会的損失が大きく、予防的・治療的介入の開発が急務である。また、精神症候学による現在の臨床診断は生物学的に極めて不均質である。これを解決するべく、遺伝的要因と表現型から診断分類を見直すgenotype-to-phenotypeが進んでいる。病態解明において遺伝的要因の理解は不可欠と言える。 自閉スペクトラム症と統合失調症の病態仮説の一つに、脳発生期の神経ネットワーク構築の障害がある。加えて、疾患に強く関連するゲノム変異は稀な変異に集積するというcommon disease-rare variant仮説が知られる。そこで本研究課題は、発達期の神経細胞間シナプス刈り込みに重要な役割を果たすミクログリア特異的分子CX3CR1の稀なゲノム変異に着目し、CX3CR1をコードする遺伝子上の稀な一塩基変異と両精神障害の関連を遺伝統計学的に明らかにするとともに、基礎研究者の支援を得て、同定したゲノム変異がタンパク質の機能に変化をもたらすことを示した。さらに本研究課題から得られた知見を踏まえて、自閉スペクトラム症の遺伝・乳幼児期の環境と発育発達に関する総説を執筆した。自閉スペクトラム症と統合失調症の原因を親の養育態度とする心因論は、20世紀後半までまことしやかに語られてきた。精神障害の正確な理解は、親の不要な自責感の払拭、非科学的な病因論の否定、科学的根拠に基づく適切な介入のために不可欠である。本研究課題では、両精神障害の生物学的基盤や病態解明につながる重要な知見が得られたと考える。
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