研究課題
マウスにCCL4を8週間投与し肝臓に線維化を誘導し、採取した肝臓に薬剤処理を施し脱細胞化を行った。マウス初代肝細胞 3000万を経胆管的に脱細胞化肝臓組織に注入、生着させて、細断した上で培養皿上で1週間培養した。線維化肝由来脱細胞化組織で培養を行ったものは、正常化肝由来脱細胞化組織で培養したものと比較して遜色ない高い生着率と生存率が得られた。いっぽう、肝特異的蛋白であるアルブミン、CYP3A1、HNF4aの遺伝子発現は線維化肝由来脱細胞化組織で培養されたもので有意に低く、アルブミンおよび尿素の合成量も有意に少なかった。また、線維化肝由来脱細胞化組織で培養されたものでは、Snail1やVimentinの遺伝子発現が増強しており、上皮間葉転換様の変化の存在が示唆された。さらに、線維化肝由来脱細胞化組織ではインテグリンβ1の蛋白および遺伝子発現が亢進するとともにリン酸化FAKが増えており、インテグリンーFAKシグナルの活性化が確認された。FKA阻害剤によるインテグリンーFAKシグナルの抑制実験を行ったところ、正常化肝由来脱細胞化組織で培養されたものではHNF4aの発現が低下するのに対し、脱細胞化肝由来脱細胞化組織で培養されたものではSnail1の発現が濃度依存的に抑制されるとともにHNF4aの発現が増加した。肝線維化の進行とともに細胞外基質からのインテグリン―FAKシグナルが活性化し肝細胞機能を低下させること、その機序に上皮間葉転換の誘導の関与が示唆されること、インテグリン―FAKシグナルの抑制が肝線維化による肝細胞の上皮間葉転換様変化を抑制し肝機能を改善するための治療選択肢の一つとなりうることが示された。
2: おおむね順調に進展している
研究者の異動により研究環境の再整備が必要であったものの、速やかに動物実験の開始が可能であった。実験の成果も順調に得られている。
動物実験の成果が順調に得られており、現在のモデルを継続して用いて病態の機序解明と治療選択肢の探索を行う方針である。具体的には、肝線維化の進行に伴う肝細胞機能の低下について、細胞外器質から肝細胞へのインテグリン-FAKシグナル活性化の証明とその機序の証明が進められてきており、治療選択肢の探索とその効果の検証についてが今後の課題である。
すべて 2017
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Journal of the American College of Surgeons
巻: 225 ページ: S199~S199
https://doi.org/10.1016/j.jamcollsurg.2017.07.455