研究実績の概要 |
妊娠高血圧腎症(Preeclampsia、以下PE)は妊娠により血圧上昇、尿蛋白を来す疾患である。短期的には分娩後に症状は改善するが、長期的予後として将来心血管障害(Cardiovascular disease、以下CVD)や糖尿病などに2~4 倍罹患しやすいことが近年の疫学調査で報告されている。同様に、PE妊婦から産まれた子も、将来CVDやメタボリック症候群に罹患しやすいことが知られている。詳細なメカニズムは未だ不明であるが、心血管内皮の傷害や妊娠中のエピジェネティクス制御の関与が推測されている。 PEの発症機序として妊娠初期の胎盤形成不全や母体炎症との関連が知られており、我々は、母体炎症に着目した炎症誘発性の妊娠高血圧腎症ラットモデルを使用し、PEを経験した母獣やPE母獣から生まれた仔の将来のCVD、メタボリック症候群の発症リスクを評価した。 今回、PEを経験した母獣は、産後16週において血圧、心機能、糖負荷試験では異常は認めなかったが、心肥大、心肥大関連因子(Gata6, Ep300, Mef2c)の上昇、心臓におけるアセチル化ヒストンH3の上昇、高脂血症を認めた。つまり、PE自体が将来のCVDやメタボリック症候群の発症の直接的なリスク因子となることが判明し、これらの知見を2017年9月に第38回妊娠高血圧学会で報告した。今後は母獣のみならず、PE母獣から生まれた仔に関しても実験を続けていく予定である。
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