研究課題/領域番号 |
17H06763
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
國武 絵美 三重大学, 生物資源学研究科, 助教 (30800586)
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研究期間 (年度) |
2017-08-25 – 2019-03-31
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キーワード | 糸状菌 / カーボンカタボライト抑制 / セルラーゼ / 遺伝子発現制御 |
研究実績の概要 |
糸状菌Aspergillus nidulansにおけるセルラーゼ遺伝子のカーボンカタボライト抑制(CCR)は従来からよく知られている転写抑制因子CreAが関与する機構の他に、cAMP依存性プロテインキナーゼ(PkaA)を含む情報伝達機構が強く関与する。本研究ではこのPkaA依存的なCCR機構を解明することを目的としている。 平成29年度はPkaA依存的なCCR機構とCreA依存的なCCR機構の違いを詳細に解析するとともに、PkaAの上流因子であるGタンパク質αサブユニット(FadA, GanA, GanB)の特定を行うためそれぞれの遺伝子破壊株を作出し、プレートアッセイとRT-qPCRによりグルコースまたは2-デオキシグルコース存在下でのセルラーゼの発現を解析した。その結果、CreAとPkaAは独立してセルラーゼ遺伝子のCCRを制御することが改めて示され、またその上流因子としてGanBが働くことが示唆された。予備実験の段階ではあるが、各遺伝子破壊株における培地中のグルコース消費量の変動が観察されたことから、グルコースの取り込み量がCCRに影響を与えていると予測される。グルコースの他の様々な抑制糖共存下でのセルラーゼ・マンナナーゼ発現についても同様に解析した。セルラーゼに関しては糖の種類によりCreAと PkaAの依存性が異なること、ペントースにはGanBだけでなくFadAも応答することを明らかにした。マンナナーゼについてはPkaAではなくCreAを介した経路が主要なCCR機構であり、またほぼ全ての糖についてGanBとFadAの両方が関与していることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
CreAとPkaAが独立した経路でCCRに関与すること、GαであるGanBがこれらの上流に位置すること示唆する結果を得た。しかし、当初の予想に反して液体培養時では寒天培地上で見られたPkaAのセルラーゼのCCRへの強い関与が見られず、CreAと同程度であることが判明した。培養方法によって働くCCR機構の強度が変化すると考えられるが、この新たな課題を解決に導く結果を得ることはできなかった。この実験の遂行のため、実施予定であったGanBとFadAの機能の詳細な比較など計画の一部が滞った。また、PkaAがcAMP存在下で活性化するため各培養条件下での細胞内cAMP濃度測定やcAMP添加によるセルラーゼ発現解析も行ったが、cAMPとCCRの関連性を明確には示せなかった。このため“やや遅れている”と評価したが、今年度の大目的は概ね達成しており、また直接的か間接的かは不明あるが、PkaAのターゲットの一つがグルコーストランスポーターであることも示唆され、今後につながる成果も得られている。
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今後の研究の推進方策 |
今年度中に行う予定であったGanBとFadAの二重破壊株を用いた転写解析を行い、それぞれのGαが応答する抑制糖とCCRの関連性を明らかにする。 PkaAのターゲットとなる因子を同定するため、予測されるセルラーゼ遺伝子の発現に特異的な転写因子のPkaA依存的なリン酸化の検証を行うとともに、PkaAと相互作用する基質タンパク質の同定を試みる。また、グルコースの添加により速やかにセルラーゼ遺伝子の発現が抑制される要因として、セロビオースの取り込み/感知を行うセロビオーストランセプターの機能や安定性がグルコースに制御されることによりセロビオースシグナルが遮断される可能性がある。セロビオーストランセプターの翻訳後修飾や安定性をCreA, PkaA, Gα遺伝子破壊株を用いて解析する。
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