研究課題/領域番号 |
17H06765
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
彦坂 茉里 三重大学, 医学系研究科, 助教 (70804326)
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研究期間 (年度) |
2017-08-25 – 2019-03-31
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キーワード | IgE |
研究実績の概要 |
平成30年度は、IgE産生細胞において細胞凝集に必要なFc gamma receptorCD16/CD32の発現解析、ならびに脾臓以外に局在するIgE産生細胞を検出することを計画した。これまで他研究者により、抗体産生細胞には抑制型ITIMモチーフをもつCD32のみ発現すると報告されていた。しかし、本申請者はこれまでにIgE産生細胞が凝集を介して抗体産生量を増加させることや凝集にCD16/CD32のどちらかが関与することまで分かっており、抑制型CD32のみならず、活性型ITAMモチーフをもつCD16も発現するのではないかと仮説をたて解析を行った。 免疫したマウスの脾臓中に、IgE産生細胞が10(6)に10個という頻度で存在することをELISPOTアッセイにて確認した後、フローサイトメトリーにてIgE産生細胞を含むプラズマ細胞集団でCD16/CD32をそれぞれ発現するのか検出を試みた。 プラズマ細胞マーカー(CD138等)で回収し、CD16を特異的に認識する抗体とCD16とCD32の両方を検出する抗体を用いて解析したところ、CD16とCD32の両方を認識する抗体で陽性細胞を検出できたが、CD16を特異的に認識する抗体では陽性細胞をほとんど検出できなかった。さらに、IgE抗体産生細胞のモデルとして用いた細胞株でも同様の実験を行ったが、IgM抗体産生細胞と同じように、CD16陽性細胞を検出できなかった。このことから、IgE産生細胞にはCD16を発現する可能性は低く、凝集を介した抗体産生量の増加には抑制型受容体CD32、さらには他分子等も関与しているのではないかと考えている。 また、脾臓以外の他組織でIgE産生細胞の検出を試みたところ、思いもよらず胸腺でIgE陽性細胞を検出した。IgG等の抗体産生細胞は二次リンパ器官から骨髄へ移動し長期生存プラズマ細胞として維持されることは知られているが、IgE抗体産生細胞も同様の表現系か分かっていないことが多く、この結果は今後IgE産生細胞の維持機構を考える上でも、興味深い結果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初、検出感度の高さからELISPOTアッセイでIgE産生細胞の存在を確認し、その後フローサイトメトリーでIgE抗体産生細胞の細胞表面分子の解析にのぞんでいたものの、他抗体産生細胞と区別するための細胞内染色と同時並行で表面分子の発現解析を行うことによるバックグラウンドが非常に高く、またIgE産生細胞の頻度の低さから陽性か偽陽性か判断することが難しいことから条件検討に時間を要した。そこで、IgE産生細胞を含む細胞集団でCD16の発現を検出できれば、IgE産生細胞にも発現する可能性を見出せると考えたが、当初の予想と反しCD16陽性細胞はほとんど検出されなかった。CD32の可能性が高いものの、阻害抗体で抗体産生量が減少するのか、結果を得る段階まで至っていない。 IgE産生細胞をさまざまな組織の切片を作成し染色実験を行う中で、副次的な結果としてIgE産生細胞が二次リンパ器官以外の胸腺等で存在する可能性を得た。組織ごとのIgE産生細胞の表現系の比較は、IgE抗体の制御機構を知るうえで非常に重要である。当初の研究計画から予期していた結果とは少々異なるものの、副次的な結果も得られた観点から、おおむね順調に進んでいると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、凝集から抗体産生の増加に関与する分子機構に関して、IgE産生細胞で特異的に発現する因子に着目し解析を行う。細胞凝集させ抗体産生が増加した細胞での分子発現を解析し、それらの阻害抗体によりどの分子が関与しているのか同定を目指す。 また、今年度に引き続きさまざまな組織の切片を作成し免疫染色を行うとともに、各組織のIgE産生細胞を回収して分子発現の解析や抗体産生量を比較検討することで、各組織でのIgE抗体産生細胞が脾臓のIgE抗体産生細胞に近いのか、それぞれの組織ごとのIgE抗体産生細胞の表現系の解析に取り組む。 最終的に、上記の分子を阻害抗体をマウスに投与した際に、IgE産生細胞を誘導したマウスで、IgE抗体量が減少するのか、IgE抗体の産生制御機構の解明に取り組む。
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