これまでカニクイザルの卵胞発育誘起は、ヒトの方法を踏襲しFSH投与を行ってきたが、個体間の遺伝的バンクグランドの差による採卵数のバラツキが発生工学研究を進める上で問題であった。このことから個体毎の採卵数を安定させることができれば、効率良く霊長類モデルの作出が可能となると考え研究に着手した。FSHはインヒビンによる負のフィードバックを受けるため、インヒビンに対して獲得免疫を誘導することで負のフィードバックを中和し、FSH投与に対する卵巣応答を均一化させることができるのではないかと考えた。卵丘細胞におけるqRT-PCRにより、カニクイザル卵胞で発現しているメジャーなインヒビンαのスプライシングバリアントを同定した。次に免疫誘導を行うための“ヤギ”インヒビンと類似または共通のアミノ酸配列を同定した。今後、同定した配列を元にインヒビンペプチドを合成し投与による免疫獲得およびFSHに対する卵巣の反応を検討していく。また血清AMH測定による、卵巣予備能の高い採卵候補カニクイザルのスクリーニングシステムの構築を行った。AMHは発育過程の卵胞から分泌されるホルモンであり、血清中のAMH値は卵巣内卵子の数と相関する。ELISA法によるAMH測定の結果、カニクイザルにおいてもAMH値と総採卵数には正の相関が見られた。このことから採卵候補カニクイザルのAMHを測定し、卵巣予備能の低い個体を候補から外すことで、一定数以上の卵子を安定して発生工学実験に供試することが可能となった。さらにカニクイザル発生工学研究の発展型として、Oct3/4のレポーターとしてtdTomatoを発現するカニクイザルES細胞を樹立した。インヒビンの免疫中和によるFSH投与への卵巣応答の均一化とAMH測定による採卵個体の選別、樹立したレポーター発現ES細胞を用いることで、カニクイザル発生工学研究の進展への相乗効果が期待される。
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