本研究は歩行学習方法の違いによる歩行学習効果を、皮質脊髄路の活動量を反映する筋電図間コヒーレンス解析により神経生理学的背景から検討し、より効果的な歩行学習方法を提案することを目的としている。今年度はまず、昨年度整えた先行研究と同様の歩行測定環境を使用して健常者を対象とした測定を継続した。歩行学習条件として重錘による抵抗を一度に加えるAbrupt条件と重錘による抵抗を徐々に加えるGradual条件を実施した。Abrupt条件とGradual条件では歩行学習後に生じる歩行学習効果(遊脚時間や歩幅の対称性)に有意な差は得られなかった。現在、本研究の最も独創的な点である歩行学習中の筋電図間コヒーレンス解析による皮質脊髄路の活動量を検討しており、Gradual条件と比較してAbrupt条件ではコヒーレンスが増大する傾向が得られている。これらのことから、Abrupt条件は皮質脊髄路の活動量を増加させた上で歩行学習を行うことにより、脳卒中患者のように皮質脊髄路の活動量が低下している有疾患者に対して神経生理学的背景の改善も考慮した歩行学習方法となる可能性がある。一方、Gradual条件は皮質脊髄路の活動量の増加を必要とせずに同様な歩行学習効果が得られるため、皮質脊髄路の損傷が重度な有疾患者に対して効果的な歩行学習方法となる可能性がある。 また、10分間の歩行学習課題を行っていたが、若年健常者対象でも実施中・実施後に疲労感を訴える者が多かったため、先行研究と同様の方法で同じ時間を脳卒中患者対象に検討することは難しいと判断された。そのため、今後脳卒中患者を対象として歩行学習課題を実施していくためには歩行学習課題の時間を短縮する必要があり、外的フィードバック方法による歩行学習の促進効果を検討する基礎的研究内容を充実させていく方向に研究計画を修正した。
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