研究課題/領域番号 |
17H06778
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
定兼 仁 京都大学, 経済研究所, 助教 (30804900)
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研究期間 (年度) |
2017-08-25 – 2019-03-31
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キーワード | ゲーム理論 / 戦略的情報伝達 / 情報の経済学 |
研究実績の概要 |
組織的意思決定に伴う戦略的情報伝達に構成員間での金銭移転がどのような影響を与えるかということについてゲーム理論を用いて分析し、伝達された情報に基づく金銭移転が組織の意思決定の効率性に与える影響について分析を行った。具体的には、組織の意思決定者が私的情報を保有する利害関係者(専門家)から言伝の情報を(支払いに関する事前の取り決め無しで)買うことができるような状況において、どのような手続を通じて伝達された情報に対する支払いを行うと、専門家からより詳細な情報を引き出すことができるかということを明らかにする。 平成29年度は分析を通して以下の結果を得た。まず、(1)本研究で分析する「自発的な金銭移転を伴う情報伝達」が比較的広いクラスの情報伝達の手続の中で最も高い期待利得を意思決定者にもたらすということが示された。次に、(2)意思決定者から専門家への金銭移転だけでなく、専門家からの支払いも許容した場合には専門家の私的情報が意思決定者に完全に伝わる均衡が存在し、その均衡が最も効率的な均衡となることが示された。さらに、(3)意思決定者がコストをかけて情報収集を行うことが可能なチープ・トークゲームを分析し、意思決定者の期待利得を最大にするような均衡を特徴付けた。(1)(2)の結果を元に本研究課題の予備的研究を行った論文 "Multistage Information Transmission with Voluntary Monetary Transfer" の改訂を行い論文を完成させた。(3)の結果は "Complementarity between Communication and Investigation" として草稿にまとめた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画どおり平成29年度は「課題1:金銭移転を許容した情報伝達の最適な構造の分析」「課題2:意思決定者がコストを掛けて情報収集することが可能な場合のチープ・トークコミュニケーションにおける情報伝達の最適な構造の分析」 に取り組み、課題1と課題2のそれぞれについて "Multistage Information Transmission with Voluntary Monetary Transfer"、"Complementarity between Communication and Investigation"の2つの論文を完成させた。当初の予定では前者の論文の年度内の国際査読雑誌への採択を目標としていたが達成されなかったので、この点については当初の予定より少し遅れが見られる。一方で、後者の論文については当初予定していたよりも一般的なクラスのモデルで主要命題を得たので、この点については計画以上の進捗であると言える。以上の理由から総合的に判断して、本研究課題の進捗状況はおおむね順調であると結論付けることが出来る。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は、昨年度に完成させた論文の専門誌(The Review of Economic Studies、Games and Economic Behavior)への投稿を行う。これと並行して、新たに「課題3:情報伝達を行う際に、金銭移転とコストを掛けた情報収集のいずれもが可能な場合の最適な情報伝達の構造の探求」に取り組む。 さらに、これまでの戦略的情報伝達に関する先行研究において扱われてこなかったクラスの利得・情報構造へのモデルの拡張も行う。本研究で扱うクラスのモデルにおいては、金銭移転や情報収集を行えない状況下での均衡の性質がまだ明らかになっていないので、まずはこれを明らかにする。その後に、プレーヤー間での金銭移転や意思決定者の情報収集を許容したものへとモデルを拡張し分析を進める。年度内に新しく得られた研究成果は京都大学経済研究所のDiscussion Paperとして公開する予定である。
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