本研究では組織内での情報伝達について、組織の意思決定の効率性の観点から望ましい情報伝達メカニズムの解明を試みた。研究の結果、金銭移転を伴う逐次的な情報伝達メカニズムが比較的広いクラスのメカニズムの中で最も効率なものとなりうることが示された。また、情報を受け取る側の追加的な情報収集活動が情報伝達を促進することがあることが示された。 上記の結果は以下の二つの点において重要な意義を持つ。組織が分業したタスクを調整・統合しアウトプットを生み出す以上、組織内で散在した情報を意思決定者にうまく集約することは円滑な組織運営に必要不可欠である。したがって、まず、比較的広いクラスの情報伝達メカニズムの中から、効率的な(詳細な情報伝達を引き出す)メカニズムを見つけ出したことは、現実社会における企業・組織運営を議論する上で重要な貢献と言える。次に、情報を受け取る側の戦略的な情報収集活動が組織内での情報伝達に影響を与えるということを示した点が重要である。これは例えば、企業組織の意思決定者の市場調査活動が「ただ、必要な情報を集める」というだけでなく「部下からの情報伝達を促進する」という役割を果たしうるということを意味する。この事実は、情報収集活動が果たす役割について、既存研究では知られていなかった新たな側面があることを示している。 本研究が取り組んだ理論分析は、組織内での契約や権限配分を議論する組織設計問題と密接な関係がある。なぜなら、「どの程度の情報が伝わりうるか」ということは、「誰が意思決定をすべきか」ということに直接的に関わってくるからである。したがって、本研究の結果を礎に、組織設計問題の文脈においてもさらなる発展がもたらされることが期待される。
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