本研究の目的は,他者のネガティブな感情を効果的に調整可能な方略を解明することである。本年度は,新規研究の実施と結果の取りまとめを中心に行った。 まず,質問紙調査により,日本とアメリカ間で,効果的に働く感情制御方略の相違点を検討する研究を行った。その結果,出来事をポジティブに捉え直す「再解釈」に関しては,感情を上手く扱う特性である「情動知能」との相関について,国の間で差が見られなかった。一方,感情の表出を抑え込む「抑制」については,アメリカでは情動知能との負の相関が見られたのに対して,日本では有意な相関が見られず,国によって違いがあることが明らかになった。この知見について,論文を執筆し,国際誌に投稿した。 また,別の調査として,感情制御の与え手のデータ(例:用いられた方略の種類)と同時に,受け手のデータ(例:感情制御を受けたことに伴う感情の変化)も取得する研究を実施した。具体的な調査内容としては,オンライン上で,感情制御の受け手の参加者が,自分が最近ネガティブ感情を感じた出来事とその時の自分の気持ちを記述し,感情制御の与え手の参加者に向けて送信した。そして,感情制御の与え手の参加者が受け手の参加者が書いた記述の内容を読み,受け手のネガティブ感情をなるべく和らげるような返信を書いた。その後,受け手の参加者は返信内容を読んだ後,「返信を読んでどの程度ネガティブ感情が和らいだか」を評定した。 得られたテキストデータを数量化するために,感情制御理論(プロセスモデル)における分類に従い,用いられている「他者のネガティブ感情を制御する方略の種類」を,第三者の評定者がコーディング・集計した。また,ネガティブな感情を感じた出来事の種類に関しても,コーディングを行っている。これらの結果を取りまとめ,論文を執筆し,国際誌での発表を今後目指す予定である。
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