本年度の研究課題は大きく2つあり,1つはUHF環をテンソルした場合のBost--Connes系の同型問題,もう1つが半群C*-環の同型問題であった.前者についてはあまり良い進展が得られなかったものの,後者については満足の行く進展が得られた.具体的には,半群C*-環のKMS状態を調べ,type I KMS状態に付随する既約表現の決定及び分配関数の決定などを行って,半群C*-環においてDedekind zeta関数がどのような形で「量子統計力学的な関数として」現れるかを明らかにした.Liの結果で半群C*-環がゼータ関数に相当する情報を持っていることは明らかになっていたが,Bost--Connes系の場合と比較して,関数としてどのような形で現れるかはよく分かっていなかった.Cuntz-Deninger-Lacaの論文ではKMS状態の決定はなされていたものの,分配関数については不十分な形でしか研究されていなかったが,今回の結果でその部分が非常によく分かる形となった.さらに,年度の後半に発表されたBruceの論文で,半群C*-環にさらに数論的なデータを付加したC*-環が定義された.このC*-環に対して前述の結果が拡張可能であることも明らかにした.年度内には論文を完成させられなかったが,論文の執筆段階に入っている. また,前年度得られたBost--Connes C*-環の完全分類はこの分野において決定的な結果であり,各所で研究発表を行った.特に,12月に作用素論・作用素環論研究集会において招待講演者として連続講演を行ったのも本年度の主要な実績の一つである.
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