ナノ粒子の物性に大きな影響を与える粒子径分布を制御するためには,ナノ粒子合成過程における核生成挙動の理解が必要不可欠である。ナノ粒子の核は極めて小さく,また迅速に発生するので,その検知や均一な実験条件の設定が困難であったことから,これまでナノ粒子の核生成過程の系統的な理解が得られなかった。こういった現状に対し,本研究ではマイクロリアクタを用いた「均一な反応場の創出」により問題を解決し,ナノ粒子の核生成を速度論的・確率論的な理解を試みる。本年度は,予備的検討として,種々の条件における金ナノ粒子合成を試みた。金イオン源である塩化金酸(HAuCl4)水溶液および還元剤である水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)水溶液をそれぞれシリンジポンプによりマイクロリアクタに導入し,急速混合させた。金イオンの還元,核生成,粒子成長を経て得られた金ナノ粒子を透過型電子顕微鏡(TEM)および動的光散乱法(DLS)を用いて観察した。DLSにより10 nmから100 nmにおよぶ幅広い粒子径分布が得られ,これは金ナノ粒子が凝集していることを示唆している。また,TEM像から金ナノ粒子の多くが実際に凝集していることを確認した。この凝集を防ぐために保護剤として分子量55000のポリビニルピドリドン(PVP)をあらかじめHAuCl4水溶液に溶解させた。この水溶液を還元剤水溶液とマイクロリアクタにより混合させ,金ナノ粒子を合成したところ,単分散な金ナノ粒子分散液を得た。また,少なくとも10日間は分散安定であることも確認した。
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