研究課題/領域番号 |
17H06795
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
後藤 龍太郎 京都大学, フィールド科学教育研究センター, 助教 (50725265)
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研究期間 (年度) |
2017-08-25 – 2019-03-31
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キーワード | 共生 / 二枚貝 / 種分化 / 系統解析 / ウロコガイ上科 |
研究実績の概要 |
寄生や共生といった密接な種間の相互作用が種の多様化を促すかどうかという問いは進化生物学上の重要な命題である。ウロコガイ上科は、浅海域で多様化を遂げた二枚貝類である。面白いことに、他の動物に片利共生して暮らす共生生活性の系統と宿主を持たず独立生活を行う自由生活性の系統が存在する。前者から後者が派生的に進化し、生活様式の転換によって種の多様化が促進されたことが示唆されているが、どのような生態的な変化が多様化を導いたかは明らかになっていない。本研究は、日本に分布するウロコガイ上科を主な対象として、共生系統と自由生活系統の間で、幼生の分散様式、集団間の遺伝的な分化、幼生の分散・着底時期などを比較することで、両者の種多様化のパターンの違いをもたらした生態的要因を明らかにすることを目的としている。 本年度は、南西諸島と本州(紀伊半島南部)を中心にウロコガイ上科二枚貝類に関するサンプリングと野外調査を行った。得られたサンプルについてはDNAを抽出し集団遺伝解析や分子系統解析を進めた。さらに、標本を解剖しベリジャー幼生の保育の有無を順次確認することで、浮遊幼生の分散時期の推定を試みている。ミドリユムシヤドリガイなどについては新たに幼生保育の生態を持つことを明らかにできた。形態計測については、共生性の系統を中心に進めた。本年度の特筆すべき成果としては、南西諸島において甲殻類の巣穴内部に共生する5種以上のウロコガイ上科二枚貝類を新たに発見したことである。これらの種は、遺伝子を用いた系統解析の結果から、自由生活性の系統から比較的最近進化した可能性が高いことが示唆された。これらの種を集団解析や実験などに今後加えていくことで、生活様式の進化による生態的な変化についてより詳細な検証と議論ができると考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度は、DNAを用いた解析とそれに必要な分子実験環境の確立を行うとともに、幼生分散・着底時期解明のための標本解剖、形態計測について主に研究を進めることができた。ただし、DNAを用いた集団解析については、解析した集団数が限られており、地理的な遺伝構造の議論を行うにはより多くの集団を解析に加えることが必要である。解剖による幼生保育時期の検証については、異なる宿主を利用する複数種のウロコガイ上科を対象に進めることができた。日本の沿岸域には多様な系統のウロコガイ上科が生息しており、この利点を活かすことができている。一方、自由生活性のものに関しては、共生系統ほど解剖が進んでおらず、今後より多くの標本を解剖する必要がある。浮遊幼生の着底パターンを調べるための飼育実験に関してはまだ十分に実験が行えていないため、次年度への課題となった。
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今後の研究の推進方策 |
集団解析に関しては、日本周辺で比較的広域に分布する共生系統の種であるマゴコロガイ、スジホシムシモドキヤドリガイを中心にさらに多くの産地を加える。一方、自由生活性系統に関しては、これまで採集を行なっていなかった地域でもサンプリングを実施する。形態計測については、自由生活性のものを中心に実施する。季節を通じた調査による幼生分散・着底時期の解明に関しては、これまで採集していなかった時期にサンプリングを実施することで情報の補完を目指す。今年度南西諸島で甲殻類の巣穴から見つかった共生性らしき種に関しては、さらにその生活様式について野外調査を行い、真に共生性の種かどうか詳しい生態を明らかにした後、解析に加える。幼生飼育実験については、採集が比較的容易な種(スジホシムシモドキヤドリガイなど)を中心に実施する。
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