研究課題/領域番号 |
17H06811
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
渡邉 翼 京都大学, 複合原子力科学研究所, 助教 (30804348)
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研究期間 (年度) |
2017-08-25 – 2019-03-31
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キーワード | ホウ素中性子捕捉療法 / BNCT / L-BPA / 腫瘍組織内薬剤不均一分布 |
研究実績の概要 |
(目的)ホウ素中性子捕捉療法とはホウ素原子の同位体(10B)が速度の遅い中性子を取り込み、α線と7Li粒子に分裂する物理反応を応用したがん治療法である。この反応後に放出される核粒子の飛程は10μm未満と一般の細胞の直径に満たず、中性子は用いるエネルギーが小さいためそれ自身の生物学的影響は少ない。従って、ホウ素原子を細胞内へ送達し、その後中性子を照射すればその細胞のみを照射することができる。問題点として、腫瘍組織内でのホウ素薬剤の分布が均一ではなく、抗腫瘍効果が一様に得られない可能性が示唆されていた。本研究の目的は、ホウ素中性子捕捉療法に主に用いるホウ素薬剤4-boronophenylalanine(L-BPA)の腫瘍組織内での分布が不均一になる機序を明らかにすることである。 (方法)複数の腫瘍細胞をそれぞれマウス皮下へ投与して腫瘍組織を形成させ、L-BPAの投与を行い、腫瘍組織を取り出した。腫瘍組織の切片を作成し、固体飛跡検出器CR39を用いたαオートラジオグラフィーを行ってL-BPAの腫瘍組織中におけるミクロの分布を可視化した。αオートラジオグラフィーに用いた同じ切片を、HE染色・免疫組織染色を行い、腫瘍細胞および血管構造とL-BPAとの分布、またアミノ酸トランスポーター(LAT1, ATB(0,+))とL-BPAとの分布の比較を行った。 (結果)アミノ酸トランスポーターの発現と血管構造との間に明らかな関係は認められなかった。腫瘍組織内でのL-BPAの分布は予想したとおり、不均一な分布を示した。予想に反し、壊死組織が比較的多い領域でもLAT1の発現が多く認められ、壊死組織が比較的多い領域にもL-BPAが比較的多く認められ、血管構造の枠を超えて腫瘍組織全体に広くL-BPAは分布していた。今後、さらなる検討を行う予定であるが、原因としてL-BPAは低分子であることが考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
壊死組織が比較的多い領域にもL-BPAが分布していることは予想外の結果であった。これは、L-BPAを用いてホウ素中性子捕捉療法を行う際にも、たとえ腫瘍細胞周囲に壊死がある状態であっても、L-BPAが送達されホウ素中性子捕捉療法の効果を望める可能性を示唆しており、良い結果であると考える。
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今後の研究の推進方策 |
今後アミノ酸トランスポーターの発現と低酸素分布、L-BPAが壊死領域にも集積する機序を検討し、L-BPAの腫瘍組織内での不均一分布の機序を解明していく予定である。これまでの実験結果では、予想に反し、LAT1の発現の分布と明らかに相関のある組織構造(血管構造など)・病理構造(壊死組織など)は認められなかった。通常、ホウ素中性子捕捉療法を行う際には、L-BPA薬剤を持続投与し、血中のL-BPA濃度を常に高い状態に維持するが、この血中ホウ素濃度の高低と腫瘍組織内のL-BPAホウ素薬剤分布の関連はこれまで示されていない。今後の方針として、これら投与方法との関連も示していきたい。
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