本研究では網膜色素変性を対象に、疾患特異iPS細胞を樹立し、新たな治療法の開発につなげることを主な目標とし、平行して当該疾患および類縁疾患の表現型についてさらなる検討を行った。 EYS遺伝子のc.8805C>A変異をhomozygousに持つ網膜色素変性患者3名をリクルートし、同意を得たうえで末梢血を採取、プラスミドを用いた遺伝子導入でiPS細胞を樹立した。正常のiPS細胞を網膜様組織に分化誘導することで、視細胞のマーカーとなる遺伝子群およびEYS遺伝子の発現が上昇することを確認した。患者由来の細胞を同様に分化誘導し、タンパク発現量を指標とした薬剤スクリーニングを行っている。樹立した細胞株は今回標的としている薬剤のスクリーニング以外に、疾患の病態解明という利用も期待できる。 対象となる患者をリクルートする過程で、新たに100例以上の症例で原因となった変異を特定したほか、これまで病原性について議論のあった変異について検討を行い、いくつかのものは実際に原因になっている可能性が高いことを確認した。また網膜色素変性と同様に視細胞死を来す疾患であるクリスタリン網膜症について、様々な機器を用いることで鑑別診断が容易になることを報告した。さらに網膜色素変性で同じ遺伝子変異を持つ患者でも症状には個人差があることから、環境因子の寄与について着目し、横断研究ではあるが喫煙者では視力や視野が不良で、網膜の障害が強い傾向を見出した。この知見は疾患の進行を抑制する介入の確立につながるものと期待される。
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