本研究の目的は、生体を模した高密度な細胞外マトリックス(ECM)を持つ三次元血管壁モデルの創製である。申請者は平成29年度の研究において、細胞外マトリックス (ECM) の主成分の一つであるコラーゲンをマイクロファイバー化し、平滑筋細胞と共培養することで高密度なECMを持つ三次元組織を構築できることを報告した。さらに内皮細胞を組織上に播種することで一層の内皮細胞とECMと平滑筋細胞の層からなる大動脈血管壁を模倣した組織が可能であることも確認している。平成30年度は、コラーゲンに加えて血管壁のECMの主成分であるエラスチンを用いて組織を構築することで、組織収縮が少なくより生体に近いECM比を持つ組織の構築が可能であることを確認した。これらの血管壁モデルに、炎症性サイトカインであるTNFαや酸化低比重リポタンパク質といった動脈硬化の促進に関連するとされる因子や、免疫細胞の分化に寄与するホルボールエステルと共にヒト単球細胞を処理し、その応答について評価を行なった。その結果、それぞれの因子の違いにより免疫細胞の浸潤程度に大きな差が見られ、これまで報告されている免疫細胞の浸潤過程に一致した結果が得られた。また一方で、この血管壁模倣組織の構築の際に動脈硬化組織に特異的な成分であるコレステロールなどの脂質を混合することで、動脈硬化を模した脂質領域を持つ組織が構築できることも確認した。これらの結果から、今回の研究で構築された血管壁モデルは、動脈硬化の薬剤開発や進展機序の基礎研究等への有用性が期待できる。
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