研究実績の概要 |
近年、分数の示している数量がどれくらいの大きさかを知覚する心的機能が、数認知の発達や数学の理解にとって重要になることが明らかになってきた。しかし分数の数量を心的に表現するためにどのような心的プロセスが必要なのかはいまだ解明されていない。本研究の目的はどのような心的プロセスによって分数の数量表象を形成しているのかを明らかにすることと、分数の数量表象と数学的処理成績の関連を明らかにすることである。文献調査をしたところ、近年の研究から数量表象はどの分数も同じようなプロセスで形成されるのではないことが指摘されている。具体的には、分数は頻出分数(たとえば1/4, 1/3, 1/2, 2/3, 3/4など)と、それ以外の 非頻出分数に分けられ、非頻出分数の数量表象は数量の似た頻出分数に一度変換して形成されることが報告されている。このように、頻出分数は分数の数量表象の基盤をなすと考えられているにもかかわらず、頻出分数そのものの数量表象の特徴はいまだシステマティックに検討されていない。そこで、頻出分数の数量表象が非頻出分数の数量表象よりも正確かどうかを検討した。数量表象の精度を測定する課題である、2つの分数の大小判断課題を用いた実験を実施した。大小判断の対象になる分数ペアに頻出分数のいずれかが含まれる条件と、含まれない条件を設け、それらの条件における数量距離効果の大きさを検討した。数量距離効果の大きさは数量表象の精度を反映するため、数量表象が正確な分数が含まれるペアで数量距離効果が縮小することが予想された。数量距離効果は1/4, 1/3, 1/2を含むペアで縮小したことから、これら3つの頻出分数が正確な数量表象を持っていることが明らかとなった。
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