本研究では,室温でのスピンデバイスの実現にむけて,歪みSiGeによるフォノン誘起スピン散乱の抑制とCo系ホイスラー合金による高効率スピン注入技術の確立を最終目標として行った.本年度は,SiGe上のホイスラー合金の結晶成長ならびに横型スピンバルブ素子を用いたスピン伝導実験を行った.低温においてではあるが,世界で初めてSiGe中のスピン伝導の実証し,SiGe中のスピン拡散長やスピン緩和時間を決定した. はじめに高効率スピン注入に不可欠な(111)面上でのSiGeの成長を行った.高分解能XRDならびにラマン分光測定により,(111)に配向したSiGeの成長を確認したものの,XRDの結果からはSiGe/Ge界面における欠陥の導入,歪み緩和を示す結果が得られた.その一方で,Hall効果測定の評価から,欠陥による電気伝導特性への影響は限定的であることが示された.この試料上に低温分子線エピタキシー法を用いてCo系ホイスラー合金の成長を行った.反射高速電子線回折と磁気特性評価から,ホイスラー合金/SiGe界面に反応層のない比較的良好な界面ができていることが示された.横型スピンバルブ素子を作製し,低温において非局所磁気抵抗測定によるスピン伝導実験を行った.50 Kにおいてスピン伝導を示す非局所磁気抵抗やHanle信号の観測に成功し,結果の解析から50 Kにおけるスピン拡散長ならびにスピン緩和時間を決定した.今回用いたGe組成90%のSiGe中のスピン散乱機構はGe中のスピン散乱機構と同等であることを明らかにした.残念ながら得られた信号はGeと比較すると非常に小さく,今後SiGe層の結晶性向上および界面ラフネスの低減により,さらなるスピン信号の増大を目指す.以上の結果は,SiGeを舞台にしたスピントロニクスを切り開くものである.
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