近年、数理ファイナンスで広く用いられているCIR過程(Cox-Ingersoll-Ross過)やCEV過程(constant elasticity of variance過程)をさまざまな方向に拡張する研究が行われている。その一つとして、CIR過程をLevy過程を用いて、Jump型の方程式に拡張するという研究が盛んに行われている。特に(Jump型)CIR過程は負の値にはならないという性質があるが、確率微分方程式の離散近似でよく用いられるEuler-Maruyama近似には、その性質はなく負の値をとる可能性がある。そこで、Li Libo氏との共同研究において、正の値を保った離散近似手法として、implicit Euler-Maruyama近似を構成し、その誤差評価を行った。本研究の結果は、BIT Numerical Mathematicsに掲載が決定している。 また、CEV過程の拡張として、free boundary CEV過程が研究されている。この確率過程は、拡散係数のヘルダー連続性が1/2よりも真に小さいという性質があるため、何らかの意味で境界条件を付け加えなければ、解の一意性が保証されない。一つの境界条件として、「non-sticky boundary」というものがあり、「確率過程が境界には滞在しない」という形で定式化される。これまで、このような境界条件付き確率微分方程式は、その係数が「滑らかでない」という条件があるため、離散近似に関する研究は行われていなかった。そこで、田中章博氏との共同研究において、Euler-Maruyama近似もまた「non-sticky boundary」を満たすことを証明し、その収束に関する結果を得た。本研究の結果は、学術雑誌に投稿済みである。
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