研究代表者はこれまで,抗体のFv領域(VH,VL)に逆平行のコイルドコイル構造を形成するSARAHドメインを融合することで,二量体構造を安定化させた“Fv-clasp”という新規のフラグメント抗体フォーマットを開発してきた.Fv-claspは従来のフラグメント抗体と比べて,どんな抗体にも適用でき,熱安定性,結晶化能においても非常に優れた性質を有するが,抗体によっては大腸菌による生産効率が極めて悪いものがあることが欠点であった.そこで本研究ではFv-claspのデザインの改良に着手した.従来のFv-claspでは,VHとVLの両者にヒトMst1というタンパク質が持つSARAHドメインの配列を融合していたが,本研究では収率改善を目指し,Mst1に加え,ヒトMst2,ヒトRssf1,ヒトRassf5,ヒトSAV1が持つSARAHドメインの配列の融合を試し,最も安定なFv-claspが得られるSARAHドメインのペアを探索することにした.まず,上記5種のタンパク質由来のSARAHドメインの配列をVHとVLのそれぞれに融合した発現コンストラクトを作製し,全ての組み合わせについて網羅的に,動物細胞によるFv-claspの発現を確認した.その結果,従来のSARAHドメインの組み合わせよりも顕著に発現が良好なSARAHドメインの組み合わせを見出すことに成功した.そこで次に,動物細胞による発現が比較的良好だった複数のペアについて,大腸菌発現系を用いた試料の調製を行ったところ,SARAHドメインの配列を変更しても,従来のFv-claspと同様,いずれも簡単なプロトコルで試料を調製することができ,しかも,動物細胞における発現量と大腸菌発現系における試料の収量が相関することが分かった.これらの結果から,改良版Fv-claspに用いるべき最も良好なSARAHドメインのペアを決定することに成功した.
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