福山型筋ジストロフィーをはじめとしたジストログリカノパチーと総称されるジストログリカンの糖鎖異常による筋ジストロフィーに対する根治療法は確立していない.ジストログリカンの糖鎖修飾には様々な分子が関与しているが,ラミニン結合能をもつ糖鎖を修飾する分子であるLARGEを利用した遺伝子治療はジストログリカノパチーに共通した病態に対して有用である可能性があり,特に糖鎖がある程度残存している状態ではその効果が期待される. 本研究は糖鎖がある程度残存する非重症型ジストログリカノパチーモデルマウスに対してLarge遺伝子治療を行い,in vivoでのLARGE遺伝子導入が原因遺伝子によらずジストログリカノパチーに対して有効である可能性を検証することを目的とした. 2014年に我々の研究室で金川博士らが新たに作成した dysferlin sjl/sjl :fukutin Hp/-二重変異マウスは,ある程度糖鎖の残存する非重症型のジストログリカノパチーモデルマウスである (Kanagawa et al. Plos One 2014). 我々はこの非重症型ジストログリカノパチーモデルマウスに対して骨格筋をターゲットに,MCKプロモーター下流にLarge cDNAを組み込んだアデノ随伴ウイルスベクター(AAV9-MCK-Large)を用いたLarge遺伝子治療を行った.具体的にはdysferlinsjl/sjl :fukutinHp/-二重変異マウスに対してAAV9- MCK-Largeを静脈内投与した.15週齢の時点で前脛骨筋の骨格筋サンプルを採取し,未治療群と比較した.全線維数に対する中心核数の割合は未治療群(n=6)が平均12.7%であったのに対し治療群(n=5)は11.8%であり有意な差は認めず,治療効果は明らかでない結果であった.しかし全線維数に対する壊死線維の割合は未治療群が平均1.49%であったのに対して0.13%と有意差をもって低下しており(p=0.02),ジストログリカノパチーにおける骨格筋壊死がLARGE遺伝子治療により改善している可能性が示唆された.
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