研究実績の概要 |
平成30年度は、以下の解析を行った。 ATAD2ノックダウンES細胞の増殖速度は、未分化時においては野生型ES細胞とほぼ同じであるのに対して、試験管内で分化させ胚様体(embroid body)を形成させると、その成長が野生型に比べて遅いことから、ATAD2が分化初期に重要なことを既に報告している(Morozmi et al., 2016)。また、ATAD2はES細胞においてクロマチンの動態制御に関わることから、分化初期のクロマチン再編成においてATAD2が重要な役割を果たすことが考えられた。そこで、この可能性を検討した結果、ATAD2ノックダウンES細胞において分化から7日後に可用性画分に含まれるヒストンの量が顕著に増加したことから、ATAD2はES細胞分化時のクロマチン再編成において重要なことが示唆された。また、CRISPR-Cas9システムを用いて樹立したATAD2遺伝子ノックアウトES細胞は、ATAD2ノックダウン細胞同様に胚様体形成の遅延が認められた。さらに、肺がん由来細胞であるH1299においてATAD2のノックダウンは、血清飢餓時の細胞増殖を抑制することから、ATAD2の機能はES細胞の分化だけでなく、がん細胞増殖にも重要なことが示唆された。 ATAD2は、ブロモドメインのほかにATPaseドメインを有するタンパク質であるがそのATPaseドメインの重要性は検討されていなかった。そこで、ATAD2に含まれるATPaseドメインの機能を調べた結果、ATPaseドメインはATAD2の多量体形成に重要なことが明らかになった。興味深いことに、ATPaseドメインに変異を導入し多量体型性能を欠損したATAD2は、ブロモドメインを介したアセチル化ヒストンとの相互作用能も顕著に低下することから、多量体形成はATAD2がその機能を果たす上で必須なことが示唆された。
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