マラリア原虫は、宿主赤血球に侵入する際、自身の周囲に寄生胞膜を形成する。その後、寄生胞膜を通して数百種類の原虫タンパク質を感染赤血球表面に分泌する。これにより赤血球膜は宿主免疫からの攻撃を回避する役割を果たす一方、原虫の増殖にとって必須なアミノ酸や脂肪酸といった栄養素を血清中から取り込むように改変される。栄養素の取込みは感染赤血球膜上に形成されたイオンチャネルを通して行われることが知られており、抗マラリア薬開発の標的となっている。これまでに赤血球侵入型原虫であるメロゾイトの先端部小器官に局在するRhopH複合体がイオンチャネルの形成に関与することを明らかにしてきたが、それ以外の分子は同定されておらず、分子機構は明らかとなっていない。昨年度はCRISPR/Cas9法を用いて遺伝子組換えマラリア原虫を作成する培養系を確立し、その遺伝子導入に必要なコンストラクトを構築した。 本年度は、熱帯熱マラリア原虫RhopH複合体と相互作用する分子を同定するために、ビオチン化酵素BirAを融合したRhopH複合体を発現する組換え原虫の作成を試みた。しかし、組換え原虫が得られなかったため、BirAによるRhopH複合体および相互作用分子のビオチン化は原虫にとって致死的な要因となることが示唆された。現在異なるコンストラクトを作成中である。またこれまでに同定している機能未知な先端部小器官分子についてコンディショナルノックダウン原虫を作成した。その結果、ロプトリーに局在するRON3が原虫の増殖に必須であり、イオンチャネルの形成に関与することを見出した。よって、今後RhopH複合体だけではなくRON3も含めた栄養素の取込み機構の解析が可能となった。
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