本研究は,ダム湖の富栄養状態を軽減するための新たな技術を開発する目的で実施された。結論として,富栄養状態を低減可能な新たな技術が開発され,ダム湖において大きな問題となっている富栄養化に起因する様々な問題(アオコ,カビ臭等)の抜本的な解決へと向かう新たな対策手法が示された。 実際のダム湖内深層部では溶存酸素濃度が任意の濃度に調整され,好気性微生物の活動による硝化作用(好気環境下)および嫌気性微生物による脱窒作用(嫌気環境下)が繰り返し出現し,栄養塩の一種である無機態窒素(硝酸およびアンモニア)が水中から減少(100μg/L/y)した。また,このとき,リン酸態リンが底泥から再溶出することもなく,当初の目的であったダム湖の栄養塩削減のための新技術の開発に成功した。 本研究で試みた硝化および脱窒による水中からの窒素除去技術は下水の浄化設備などで用いられてきた嫌気・硝化内生脱窒法(AOAO法)などの原理を応用したものであるが,ダム湖においてこれを適用した前例はなく,ダム湖の深層部を一つの浄化槽として活用した世界初の試みであった(国際誌へ投稿準備中)。ダム湖の役割は,従来から言われているよう治水や水源など極めて重要なものであるが,今後,これらに併せて本技術を利用することで「浄化」の機能をダム湖に付することも期待される。 本技術は,ダム湖深層水中の溶存酸素濃度を任意の濃度に調整することが必要であるが,本研究ではダム湖に既設の深層曝気装置を利用した。すなわち,深層曝気装置が導入・運用されているダム湖であれば比較的容易に本技術を適用することが可能であると考えられ,今後,国内のみならず世界中で本技術が普及することが期待される。
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