昨年度確立した飼育実験系を用い、ヌタウナギを異なる塩分環境に移行するin vivo実験を行った。qPCR解析により、Na+-Cl--K+共輸送体や、水チャネルのアクアポリンといった既知体液調節関連分子が鰓と腎臓に発現することを確認した。このことは「順応型」のヌタウナギが、「調節型」生物と類似の物質輸送系を持つことを示唆する。 さらに、後葉ホルモン受容体を2種類同定した。顎口類では7種類、同じ円口類のヤツメウナギでも5種類の受容体が同定されている。ヌタウナギが複数の受容体を持つことは、後葉ホルモン系の分子・機能的多様化の第一段階が、ヌタウナギの分岐以前に完了したことを示唆する。また、後葉ホルモン系が鰓と腎臓を制御するしくみは、「調節型」のしくみに先んじて確立されたと考えられる。 交付申請当初は、qPCRに続いてこれら機能分子の組織内局在を調べることを予定していた。しかし本年度の予算状況を鑑みて、RNA-Seqによる網羅的な遺伝子発現変動解析(DE解析)を優先すべきと判断した。 DE解析では、鰓・腎臓のいずれにおいても、塩分環境移行に伴うNaCl輸送能の変動は確認できなかった。また、硬骨魚真骨類とは異なり、体液調節における鰓の役割が限定的であることが示唆された。一方で、腎臓が外環境塩分変化に応じてアミノ酸輸送と酸塩基調節を行うことを見出した。ヌタウナギはアミノ酸を細胞内に蓄積して浸透圧調節に用いることが報告されている。このため筋肉でもDE解析を行ったところ、腎臓と連動するアミノ酸輸送系を見出した。本研究結果から、ヌタウナギの適応戦略においては、アミノ酸を用いた細胞単位での体液調節が重要であり、腎臓がこれを補助する可能性が示唆された。
|