研究課題/領域番号 |
17H06891
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
大竹 洋輔 広島大学, 医歯薬保健学研究科(医), 特任助教 (40405915)
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研究期間 (年度) |
2017-08-25 – 2019-03-31
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キーワード | 小胞体ストレス応答 / 末梢神経 / 軸索再生 / カルシウム |
研究実績の概要 |
神経軸索の変性や機能変化は、外的損傷によるものだけではなく様々な神経変性疾患でも認められる。しかしその詳細な分子機構は不明な点が多く、軸索の再生制御・機能維持の機構解明は疾患治療の観点からも大変重要である。軸索内においては高度に分岐・伸長した小胞体で満たされており、小胞体から発信されるシグナルは神経軸索再生や機能維持に深く関与する可能性が示唆されている。本研究課題では、神経細胞軸索内で高度に発達したネットワークを構築している小胞体を起点とする神経軸索再生機構に焦点を当て、軸索損傷後のカルシウムオシレーションや損傷部における急性的な修復シグナルを解析し、小胞体ストレス応答系が惹起されるメカニズムを明らかにすると共に、軸索損傷に応答して活性化する小胞体ストレス応答系の各経路を調べ、軸索損傷・再生応答として最も主要な経路を明らかにすることを目的としている。本年度は、末梢神経軸索損傷モデルを用いて小胞体ストレス応答の活性化経路を調べ、軸索損傷とそれに引き続く再生応答との関連性について検討した。その結果、坐骨神経損傷後に小胞体よりIP3受容体およびリアノジン受容体を介してカルシウムが細胞質に放出されることによる小胞体内カルシウムの枯渇により、小胞体ストレス応答が惹起されることを明らかにした。ここで、IRE1およびPERKなどの経路が活性化することにより、軸索内オルガネラの適切な配置および成長円錐の適切な形成に関与することが示唆される結果を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題は、神経軸索で高度に発達したネットワークを形成している小胞体を起点とする軸索再生機構に焦点を当て、小胞体ダイナミクスに連動した時空間的な小胞体ストレス応答シグナルの発生と軸索再生調節機序との関連性を明確にすると共に、中枢神経系における軸索再生制御の足掛かりとするために、1)神経軸索の再生を制御する小胞体ストレス応答シグナルの解明、2)軸索再生時における小胞体ダイナミクスの解析と生理的意義の解明、3)小胞体ストレス応答シグナルを起点とした中枢神経系の軸索再生機構の解明、を目指した研究である。本年度は、1)および2)の計画に準じた結果を纏め上げることができた (Ohtake et al, Neuroscience, 2018)。さらに、中枢神経系の損傷モデルマウスを準備し、中枢神経系における小胞体ストレス応答、再生応答、細胞死関連応答の関連性についてデータも出つつあり、3)に関しても順調に研究を遂行している。従って当初の計画通り、おおむね順調に研究が進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
中枢神経系の軸索損傷後の細胞内応答シグナルにおける末梢神経系との違いを、小胞体ストレスセンサータンパク質をはじめとする小胞体ストレス応答関連因子の応答性の相違から解析を試みる。末梢神経系では、小胞体ストレス応答により軸索再生が促進されたが、中枢神経系では小胞体ストレス応答による細胞死が誘導されるとの報告もあることから、末梢神経系との相違について、詳細に検討を進めることとする。具体的には、中枢神経である視神経の損傷モデルマウスを用いて、神経軸索における小胞体ストレス応答関連因子の局在、および軸索損傷に応答して活性化する主要な経路の探索を行い、中枢神経系で活性化あるいは抑制されている小胞体ストレスシグナル経路と、その分子メカニズムを明らかにすることで最終的に、中枢神経系と末梢神経系における小胞体ストレス応答シグナルの相違点を明確にする。また、抑制されている小胞体ストレス応答経路の薬剤や関連分子の発現による人為的な活性化によって、中枢神経の軸索再性能が上昇するか検討する。
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