研究実績の概要 |
神経軸索変性やその機能変化は、様々な神経変性疾患によるものだけではなく外的損傷においても認められる。しかしその詳細は未だ明らかではなく、軸索の再生制御・機能維持の機構解明は疾患治療の観点からも重要である。本研究課題では、神経軸索内で高度にネットワークを構築している小胞体を起点とする神経軸索再生機構に焦点を当て、軸索損傷に応答して活性化する小胞体ストレス応答系の各シグナルを調べ、軸索損傷・再生応答に関連した主要な経路の解明を目的としている。本年度は、中枢神経の脊髄損傷モデルを用いて小胞体ストレス応答に関連したシグナルの軸索再生に及ぼす寄与を検討した。その結果、脊髄損傷後にLKB1が負に制御されることで小胞体ストレス応答を惹起することで知られるAMPKの活性化も低下することを明らかにした。このときLKB1を過剰発現させた系においてAMPKの活性化と共に脊髄損傷後の軸索再生を促進することがわかった。以上のことから、LKB1が小胞体ストレス応答を正に制御することで中枢神経系の軸索再生に関与することが示唆される結果を得た。 本課題は、小胞体ダイナミクスに連動した時空間的な小胞体ストレス応答シグナルの発生と軸索再生調節機序との関連性を明確にすると共に、中枢神経系における軸索再生制御の足掛かりとするために、1)神経軸索の再生を制御する小胞体ストレス応答シグナルの解明、2)軸索再生時における小胞体ダイナミクスの解析と生理的意義の解明、3)小胞体ストレス応答シグナルを起点とした中枢神経系の軸索再生機構の解明、を目指した研究である。最終年度である本年度は、3)の計画に準じた結果を纏め上げることができた (Ohtake et al, Molecular Therapy, 2019)。今後は、直接小胞体ストレス応答活性を制御することで中枢神経系の軸索再生を促進できるか検討していく予定である。
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