カブトムシにおいて、高緯度地域の個体群ほど、幼虫の成長速度が速いかを検証した。新潟、東京、山口、長崎、沖縄、台湾などにおいて成虫を捕まえ、採卵を行った。そして25℃の共通環境で幼虫を飼育し、5日ごとに体重を計測した。少なくとも幼虫の初期では、沖縄~台湾の個体群の成長速度は、本州~九州の個体群に比べてずっと遅いことが分かった。また、幼虫期間も、沖縄~台湾の個体群は平均して1か月以上本州~九州の個体群と比較して長かった。これは、高緯度地域の幼虫が速く成長するという予測と一致している。カブトムシにおいて、冬眠前の体サイズが成虫の適応度に強く影響することが知られており、冬が長い地域では、冬を迎える前に大きい体へ成長するように淘汰が働いた結果であると考えられる。しかし、本州~九州の個体群間の比較では、緯度と幼虫の成長速度の相関はあまり明瞭でないという予備的な結果が得られた。近年の分子系統解析の結果から、本州~九州の個体群と沖縄~台湾の個体群は古くに分化したことがわかっている。これらのことを合わせると、カブトムシにおいて、幼虫の成長速度はそれほど素早く進化する性質ではない可能性が高い。さらに、北海道旭川の外来個体群も、本州の多くの地域の在来個体群と比べ、成長速度に明瞭な差はみられなかった。旭川へは本州から約50年前に侵入したことが知られており、50世代では少なくとも明瞭な幼虫の成長速度の進化は起こらないと考えられる。今後は、さらに多くの地域の個体群を加え、より詳細な成長軌跡の解析を行う必要がある。
|