青森県から台湾までの約15地点においてカブトムシを採集、採卵した。幼虫を25℃の共通環境で飼育し、体重を5日おきに測定し、得られたデータから各個体の成長曲線を推定した。そして緯度と成長曲線のパラメータとの関係を調べた。その結果、緯度と成長速度の間に強い正の関係が見られた。高緯度地域での素早い成長は、冬が訪れる前にできるだけ大きく成長するための適応だと考えられる。さらに、北海道の外来個体群についても、幼虫の成長速度を調べたところ、東北地方よりもずっと小さく、本州の南部と同程度であることが分かった。つまり、北海道に侵入してから50年の間に、少なくとも明らかな適応は幼虫の成長パターンには生じていないと考えられる。 同様に、リュウキュウツヤハナムグリにおいても、15年ほど前に東京都大田区と八丈島へ移入された個体群、その起源である奄美大島の在来個体群の3個体群間で、同様に共通環境で飼育した幼虫の成長速度を比較した。その結果、緯度と成長速度に有意な関係は見られなかった。以上の結果から、コガネムシ科の幼虫の成長速度は緯度と相関するものの、それほど素早く進化する形質ではないことが示唆された。 今後はカブトムシを用い、緯度による成長速度の変異が、成長効率か摂食量どちらの変異によってもたらされるのかを解明する。また、消化管の大きさや消化管内の酵素活性、有機酸量についても、成長速度の異なる個体群間で比較を行う予定である。
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