研究課題/領域番号 |
17H06905
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
林 真一 徳島大学, 先端酵素学研究所(オープンイノベ), 特任助教 (80599572)
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研究期間 (年度) |
2017-08-25 – 2019-03-31
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キーワード | 体軸幹細胞 / 体軸形成 / T/Sox2 / Wnt3a / Tbx6 / RNA-Seq |
研究実績の概要 |
これまでの研究の中で胚発生において様々な多分化能前駆細胞が発見されてきたが、体軸を形成する前駆細胞は多くの研究報告にもかかわらず、不明瞭なままであった。近年になってマウスの体軸形成において神経管と沿軸中胚葉の両方を産み出す体軸幹細胞が存在することが分かり、研究の報告が増加しつつある。しかし、未だに体軸幹細胞の実態は明確になっていない。体軸を伸長させる胚後端部は神経前駆体と各種の中胚葉前駆体が密集する複雑な領域であり、且つ、個々の細胞系統の分岐直後は明確な形態的境界や遺伝子発現パターンの境界が見られないため、区別することが難しい。体軸幹細胞における厳密な遺伝子マーカーが発見されていないため、細胞の単離とその解析が容易ではないことから、詳細な制御機構の解明に至っていない。現在までにTとSox2の共発現やNkx1.2が指標とされているが、多分化能を示す領域との部分的不一致が見られる。厳密な遺伝子マーカーの欠如が体軸幹細胞の研究発展の大きな障害となっている。本研究は特異的遺伝子の発見と体軸幹細胞の多分化能や遺伝子制御機構を明らかにすることを目的に行っている。体軸幹細胞特異的遺伝子群を特定することによって、飛躍的に研究分野が発展することが期待される。現在までに体軸幹細胞が枯渇するWnt3a欠損マウスと過剰増加するTbx6欠損マウスの網羅的な遺伝子発現の解析とその比較から、体軸幹細胞特異的遺伝子の候補が得られている。今後はそれら候補遺伝子の発現領域と体軸幹細胞の相関性の検証、多分化能の制御における役割を明らかにする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まず、これまで報告されてきた先行研究を検証し、仮説の精査を行った。従来の指標であるTとSox2の発現が多分化能領域やその制御と相関性を調べるため、T/Sox2共発現と体軸幹細胞に必須のWntシグナルの活性化状態を比較した。Wntシグナルの強度を検出するためにWntレポーター(WntVis)を用い、TとSox2の発現強度を免疫染色、及びFACSによって比較した。その結果、T、Sox2、Wntレポーターが共発現する細胞は存在するものの、それぞれのシグナル強度に直接の相関性は見られず、境界も不明瞭であった。そのため、Wntシグナルの活性化を指標として体軸幹細胞を濃縮するためにFACSを試みた。Wntシグナルは神経管と沿軸中胚葉の発生にも必要であり、異なる強度で活性化しているため、NcadとPdgfraを用いてWntレポーター陽性細胞集団からそれぞれ神経管と沿軸中胚葉の除去を試みたが、もともとの細胞数の少なさから、解析に充分な試料を得られていない。 一方で、遺伝子改変マウスの解析から体軸幹細胞の制御に重要な制御遺伝子が明らかになり、体軸幹細胞が枯渇/過剰増加するサンプルが得られるようになった。Wnt3a欠損マウスでは体軸幹細胞の枯渇により、体軸形成が停止する。またTbx6欠損マウスでは体軸幹細胞の過剰増加が見られた。そのため、Wnt3a欠損マウスとTbx6欠損マウスにおける遺伝子発現を網羅的に解析することで体軸幹細胞に関与する遺伝子を浮き彫りに出来るのではないかと考えた。そのため、Wnt3a欠損マウスとTbx6欠損マウスからRNAを回収して、九州大学 生体防御医学研究所 トランスクリプトミクス分野との共同研究でRNA-Seqを行い、体軸幹細胞特異的遺伝子の候補が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
体軸幹細胞特異的な遺伝子を特定するに当たって、体軸幹細胞が枯渇するWnt3a欠損マウスと過剰増加するTbx6欠損マウスの遺伝子発現パターンを比較し、それらの条件と一致する発現量の変動を示す遺伝子を絞り込む。次にin situ hybridization等の遺伝子発現解析を行って、多分化能領域と一致する遺伝子を特定する。 特定した遺伝子が実際に体軸幹細胞として、多分化能と自己増殖能力を持つかどうかを検証するために、1細胞の移植や遺伝的ラベルを用いて、細胞系譜の追跡を行う。当研究室で発展させたゲノム編集法(エレクトロポレーション法を用いた高効率のCRISPR/Cas9システム)を用いて、特異的遺伝子のレポーターマウスを作製することで、より詳細な細胞追跡が可能である。 特定した遺伝子が体軸幹細胞にどのように働いているかを検証する。上記のゲノム編集法を用いて遺伝子破壊を行い、形態形成における特定遺伝子の機能を解析する。また、これまで明らかにされている体軸幹細胞の制御に関わるシグナル経路や遺伝子とどのように関与するかを明らかにする。
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