2011年にマウスの胚発生において体軸幹細胞の存在が示されたが、これまでその全容の理解は進んでいなかった。体軸を作り上げる胚の後端部は神経管の前駆細胞や各種中胚葉の前駆細胞、またその両方を産み出す体軸幹細胞が密集し、遺伝子発現や形態等で明確に区別できない。そのため、各前駆細胞の詳細な研究を進めることが難しかった。本研究で体軸幹細胞特異的に発現する遺伝子を同定し、その機能解析することで体軸幹細胞を制御するメカニズムを明らかにする。 体軸幹細胞が枯渇するWnt3a欠損マウスと体軸幹細胞が過剰に増加するTbx6欠損マウスからRNAを抽出し、網羅的に遺伝子の発現量を比較するためにRNA-Seqを行った結果、Wnt3a欠損マウスで40遺伝子の増加、91遺伝子の低下、及びTbx6欠損マウスで11遺伝子の増加、13遺伝子の低下が見られた。それらの内、Wnt3a欠損で低下し、且つTbx6欠損で増加する遺伝子は6つ得られた。既知の遺伝子を除くと、エストロゲン受容体によって発現誘導される転写制御因子Greb1が候補として残った。Greb1の遺伝子発現を確認した結果、体軸幹細胞領域に発現することが分かった。 Greb1は体軸幹細胞の制御因子の候補としての条件を満たしているため、CRISPR/Cas9を用いたゲノム編集によりノックアウトマウスを作製した。変異マウスには体軸の短縮が見られたため、Greb1が体軸幹細胞の制御に関与していることが示唆される。未だ不明な体軸幹細胞の制御機構を明らかにするための一助となることが期待される。
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