研究課題/領域番号 |
17H06906
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
福田 達也 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部(薬学域), 助教 (90805160)
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研究期間 (年度) |
2017-08-25 – 2019-03-31
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キーワード | リポソーム / DDS / 脂質膜間移行現象 / 白血球 / 脳梗塞 / 微弱電流 |
研究実績の概要 |
これまでに脳梗塞時に生じる血液脳関門の透過性亢進を利用し、リポソームによる薬剤送達が脳梗塞治療に有用であることを見出してきた。しかし、患部へのリポソーム集積量は未だ低く、集積可能時間も限定されている。本研究では、脳梗塞部位へのリポソーム集積性を飛躍的に向上させる技術の開発を目的とし、白血球が有する脳梗塞部位への接着・浸潤能をリポソームに付与した白血球膜タンパク質搭載リポソームの開発と、経頭蓋微弱電流処理を利用した脳微小環境制御による薬物送達技術の開発を目指した。 本年度は、ヒト前骨髄性白血病細胞株(HL-60)を白血球モデルとして用い、in vitroにおいて白血球膜タンパク質搭載リポソームの作製と機能評価を行った。リポソームへの白血球膜タンパク質の移行は、リポソームが細胞と接触した際に、双方の脂質膜同士が一過的に融合し、細胞膜中に存在する膜タンパク質がリポソーム膜へ移行する現象、すなわち脂質膜間移行現象により行った。その結果、HL-60細胞に発現し、接着因子を介した炎症血管への接着と浸潤に関与することが報告されている膜タンパク質のリポソームへの移行が確認された。さらに、腫瘍壊死因子で炎症刺激を加え、接着因子の発現を亢進させたヒト臍帯静脈血管内皮細胞(HUVEC)を炎症血管モデルとして用い、白血球膜タンパク質搭載リポソームを添加したところ、通常のリポソームと比較し有意に高いHUVECへの接着が認められ、リポソームへ移行した膜タンパク質の活性・配向性が保たれていることが示唆された。また、炎症処理HUVECの細胞層をトランズウェルプレートに形成させ、膜タンパク質搭載リポソームを添加したところ、HUVEC層を突破し、下層への透過性が上昇する傾向が認められた。以上より、脂質膜間移行現象によりリポソームへ白血球膜タンパク質を移行させることで、白血球様機能を付与できることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の計画では、①経頭蓋微弱電流処理によるリポソームのBBB透過促進によるリポソームの集積性向上と、②脳梗塞部位への浸潤能を有する白血球様リポソームの開発を実施する予定であったが、後者の検討しか進められなかったためである。経頭蓋微弱電流処理による脳微小環境制御に関する検討に関しては、設備の導入が遅れたものの完了したため、次年度に検討を進める。 一方で、白血球様リポソームの開発に関しては、in vitro培養細胞系ではあるが、脂質膜間移行現象を利用することでリポソームへ白血病細胞株の膜タンパク質を移行可能であり、その機能を発揮し得ることが示された。これらの結果から、ラット白血球膜タンパク質を組み込んだリポソームを作製した際にも、ラット脳梗塞モデルにおいて白血球様機能を発揮できることが期待される。
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今後の研究の推進方策 |
経頭蓋微弱電流処理を利用した脳微小環境制御による脳梗塞部位へのリポソーム集積性向上に関する検討を進め、微弱電流処理によるリポソームの集積量増加と集積可能時間の延長を目指す。具体的には、栓子法による一過性中大脳巣脈閉塞(t-MCAO)ラットを脳梗塞モデルとして用い、虚血再灌流後各時間に経頭蓋微弱電流処理を施すとともに、粒子径約100 nmに調整した蛍光標識リポソームを尾静脈内投与し、一定時間後の脳切片中の蛍光分布を評価する。さらに脳凍結切片を作製し、リポソームの詳細な脳内局在を、免疫染色などを駆使して観察する。上記目的が達成され次第、微弱電流処理による脳微小環境制御の機構解明の検討を進める。 白血球様機能を有するリポソームの開発に関しては、白血球膜タンパク質搭載リポソームが炎症血管と相互作用した際のタイトジャンクションタンパク質の発現変化や重合化アクチンの変化などを観察し、メカニズム解析を進める。併せて、ラット白血球を用いて脂質膜間移行現象により白血球膜タンパク質搭載リポソームを作製し、t-MCAOラットにおける脳内分布を観察する。以上の検討を通して、微弱電流を用いた脳微小環境制御と、リポソームへの白血球様機能付与により、脳梗塞部位へのリポソーム製剤の集積を飛躍的に向上させる技術の確立を目指す。
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