これまでに我々は、脳梗塞時に生じる血液脳関門の破綻を利用し、リポソームによる薬物送達が脳梗塞治療に有用であることを見出してきた。しかし、患部へのリポソーム集積量は未だ低く、集積可能時間も限定されている。本研究では、脳梗塞部位へのリポソーム集積性を向上可能な技術の開発を目的とし、炎症部位への接着・浸潤能を有する白血球の機能をリポソームに付与した白血球ミミックリポソーム(LM-Lipo)の開発と、経頭蓋微弱電流処理(ET)を利用した脳微小循環制御によるDDSの開発を目指した。 前年度に引き続き、ヒト前骨髄性白血病細胞株(HL-60)を白血球モデルとして用い、in vitroにおいてLM-Lipoの機能評価を行った。脂質膜間移行法によりHL-60細胞の有する白血球膜タンパク質をリポソームへ移行させることでLM-Lipoを作製した。TNF-αで処理したヒト臍帯静脈血管内皮細胞(HUVEC)の細胞層をトランズウェルに形成し、蛍光標識LM-Lipoを添加したところ、下層において通常リポソームと比較して有意に高い蛍光値が認められた。またLM-Lipo添加によるTNF-α処理HUVECの細胞間接着への影響を評価したところ、アクチン骨格の変化と、VEカドヘリン発現の有意な減少が観察された。このことから、リポソーム膜上に移行した白血球膜タンパク質がその機能を発揮し、炎症血管内皮の細胞間接着を制御することで、LM-Lipoが炎症血管細胞層を透過したことが示唆された。今後、ヒト脳血管内皮細胞株を用い検討を行うことで、LM-Lipoのさらなる有用性を実証する予定である。 ETを利用したDDS開発に関しては、実験動物の代替として期待されている発育鶏卵を用い検討を進めた。発育鶏卵へのETは、血管外への高分子の漏出を促進する結果が得られ、ETが血管内皮の細胞生理を制御可能であることが示唆された。
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