本研究は、人工骨補填材であるβ-TCP顆粒を酸性リン酸カルシウム水溶液と練和し、β-TCP顆粒同士をリン酸水素カルシウムによって橋架け、硬化させる自己硬化型β-TCP顆粒セメントに出血部位での硬化特性を付与し、その有用性を評価することを目的とした。本年度は前年度に検討した酸性リン酸カルシウム水溶液へ添加する増粘剤量の最適化を行い、実際に動物実験を行うことでその有用性を検証した。 練和液である酸性リン酸カルシウム水溶液は、前年度の研究成果より、β-TCP顆粒硬化体が十分な強度および気孔率を示すリン酸濃度20 mmol/Lに調整したものを用いた。増粘剤としてはカルボキシメチルセルロースを採用した。水溶液に対する増粘剤添加量が10wt%を超えたところから、粘性のある溶液から完全なゲルへの変化を認めたため、これを最大添加量とした。この10wt%の増粘剤を添加した溶液とβ-TCP顆粒を練和した増粘剤添加β-TCP顆粒セメントは練和後に水中に浸漬しても硬化性を示すことを確認し、動物実験を行った。 比較対象である増粘剤を添加しないβ-TCP顆粒セメントに関しては、前年度に先行して動物実験を行っていたため、本年度は増粘剤添加β-TCP顆粒セメントの生体内での挙動を検討した。増粘剤添加β-TCP顆粒セメントは出血部位に使用した場合でも硬化性を示すことが確認できたが、術後に血腫を形成しやすく、さらに創感染や炎症反応がより出現しやすいということが判明した。これは、出血している環境においても硬化性を維持できるように混合した増粘剤の影響で試料が粘稠なスラリー状になった結果、硬化体の気孔が溶液で封鎖されてしまい、閉鎖された環境の中に血液が滞留した結果である可能性が高いと推察された。
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