本研究が注目する「戦略的行動」は、政策の不適切なインセンティブ構造の影響を受けた利害関係者が、政策に関わる諸規定に抵触することなく、政策の帰結を自らに有利なものへと変容させ、結果的に政策の本来意図する効果の実現を妨げる行動を指す。この戦略的行動により生ずる政策実施ギャップは、行動自体が合法的であるため、広範に見落とされていると推測され、その潜在的社会的コストも大きい可能性がある。これまで看過されがちであった不適切なインセンティブ構造に起因する政策実施ギャップを解明する分析視角を提示し、計量分析から得られる証拠に基づく実践的な政策的含意の導出を試みた点に本研究の学術的・社会的価値がある。
|