膠芽腫は、精力的な新規治療法の開発にも拘わらず、長い間、顕著な治療成績の向上が得られていない原発性脳腫瘍であり、平均余命は僅か1年数ヶ月である。この腫瘍の治療抵抗性は、放射線治療や化学療法への感受性の低さ、浸潤能の高さに起因している。悪性脳腫瘍には造腫瘍性に富む幹細胞が含まれ、悪性度の指標となる多くの性質を保持していることから治療標的として注目されている。 がんワクチンの標的分子として知られているがん精巣抗原遺伝子は、約200程度が同定されているが、その発現制御機構や機能の大部分は未知である。 これまでに膠芽腫細胞株に由来するがん幹細胞を多く含むTumor sphere (TS)に加えて、膠芽腫患者の手術摘出サンプルからTSを樹立し、MLPA法やSanger sequencingによりIDH1/2の変異や1p19qの欠失の遺伝型を決定している。また、膠芽腫幹細胞においてがん精巣抗原遺伝子が高発現することを報告し、2つのがん精巣抗原遺伝子はノックダウンにより細胞増殖を抑制することから、膠芽腫の増殖制御に関与することが考えられた。 本年度は、実臨床と関連性の高いがん精巣抗原遺伝子を同定するために、REMBRANDT (REpository for Molecular BRAin Neoplasia DaTa)を用いたin silico スクリーニングにより、膠芽腫や星細胞腫の予後に発現が相関する59のがん精巣抗原遺伝子を同定した。次に、これらの遺伝子に関してsiRNAを用いたノックダウンによる膠芽腫細胞の増殖への影響を検討した。6個の遺伝子において細胞増殖抑制が観察された。今後は、これらの遺伝子が治療標的分子となる可能性を検討する必要がある。
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