高い発光効率を実現できる優れた特長を有する熱活性化遅延蛍光(TADF)材料の課題として、高電流密度域における素子効率低下(ロールオフ)の抑制が挙げられる。ロールオフを低減するためには、三重項励起子(T1)を速やかに光に変換して消費させ、T1同士の衝突による励起子失活を抑制することが重要である。本研究では、T1-S1逆項間交差速度を速め、TADFの発光寿命を短縮することで、有機EL素子におけるロールオフの低減を目指して研究を行った。 本年度は逆項間交差速度におけるカルコゲン置換の効果を検証し、スピン軌道相互作用の制御による逆項間交差速度の高速化のための分子設計指針について検討を行った。具体的には、ベンゾフラノン誘導体およびホスフィンオキシド/スルフィド誘導体を基盤とするTADF分子を新規に設計し、量子化学計算からスピン軌道相互作用、T1-S1間のエネルギー差などを見積もった。更に、精密有機合成によりこれらの分子材料を合成した。溶液および固体薄膜における詳細な光学物性評価から、T1-S1間のエネルギー差および逆項間交差速度を決定し、T1-S1間のエネルギー差およびスピン軌道相互作用と逆項間交差速度の相関を調査した。 本設計指針により、逆項間交差速度が増大し、発光寿命が短縮されることが示され、実際の有機ELデバイスにおいてロールオフが抑制できることが明らかとなった。
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