近年、癌の浸潤・転移において上皮間葉転換(epithelial-mesenchymal transition: EMT)が重要な役割を果たすことが報告されている。これまでにわれわれは、口腔扁平上皮癌(oral squamous cell carcinoma: OSCC)において、kallikrein-related peptidase 6 (KLK6) およびその受容体であるprotease activated receptor (PAR) 1/PAR2が口腔粘膜上皮における癌の発生に関与すると共に、口腔扁平上皮癌におけるEMTにも関与することを示してきたが、その詳細な機序は不明であった。そこで本研究では、KLK6やPAR1/PAR2がどのような分子機構により悪性転換やEMTに関与するのか解明することを目的とし、癌の早期診断マーカーの確立や治療薬の開発を実現させる基盤となる研究を行った。 まずrecombinant protein KLK6 を用いたin vitoroの刺激実験にて、KLK6はKLK6-PAR2のシグナルが活性化させ、ERKシグナルを介して細胞増殖を亢進、悪性転化に関与することが明らかとなった。一方KLK6のノックダウンは、KLK6-PAR2およびERKシグナルの抑制と、何らかの分子によるPAR1シグナルの活性化を引き起こし、遊走能と浸潤能の亢進、EMTを誘導することが明らかとなった。 以上のことから、さらなる検討は必要なものの、KLK6はERKシグナルを介した細胞機能の修飾により、癌化およびEMTに関与することが明らかとなった。
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