本研究目標は、口腔扁平上皮癌(OSCC)におけるΔNp63βを介したWnt5a-Ror2シグナルの詳細な伝達経路および関連分子を明らかにし、OSCCの転移の分子機構を解明することである。 まず申請者は、Wnt5a-Ror2シグナル経路の関連分子として、Wntアンタゴニストとして報告されているSFRP(1および2)、WIF-1、Dkk(1-4)のOSCC細胞株における発現をRT-PCR法およびreal-time PCR法にて検索を行った。その結果、Dkk-1およびDkk-3がWnt5aおよびRor2を高発現しているSQUU-B細胞においてほとんど発現していなかった。Wnt5aまたはRor2の発現変動モデルにおけるDkkの発現検索は未施行であるが、Dkk-1および3の発現減弱がWnt5aおよびRor2の高発現に関与している可能性が考えられ、Wnt5a-Ror2シグナル経路を解明する上での重要な知見と思われる。 また、OSCC生検組織におけるWnt5aおよびRor2の免疫組織化学的な発現様式と臨床病理組織学的所見との関連について検索を行った。その結果、Wnt5a高発現群はWnt5a低発現群と比較して、局所再発と遠隔転移の発生頻度が有意に高かった。また、Ror2高発現群はRor2低発現群と比較して、局所再発、頸部リンパ節転移および遠隔転移の発生頻度が有意に高かった。また、Wnt5aおよびRor2ともに高発現している群は他の群と比較して、局所再発、頸部リンパ節転移および遠隔転移の発生頻度が有意に高かった。一方、性別、部位、臨床発育様式、分化度(WHO分類)、T分類、臨床病期分類に関しては、各群間に有意差は認められなかった。この結果は、Wnt5a-Ror2シグナル経路が頸部リンパ節転移および遠隔転移に関与している可能性を示唆しており、本研究の目的にとって意義のある知見の一つと考えられる。
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