研究実績の概要 |
近年、幼少期ストレスは精神疾患や発達性障害、筋異常疼痛などの発症に関与することが報告されているが、その原因は不明である。また、中枢神経の主要な抑制物質であるγ-アミノ酪酸(GABA)は生後1、2週間で興奮性から抑制性へ機能変化することが知られている。これをGABAスイッチといい、正常な神経回路の構築に必須である。我々は幼少期ストレスが抑制系のGABA機能の成熟に影響を与え、正常な神経回路の構築が出来ず、発達性障害などにつながると考え、育児放棄モデルとして母子分離ストレスを用い、このストレスが抑制系のGABA機能の成熟に与える影響を各種イメージング法にて解析した。その結果、GABAの成熟に関与するK+-Cl-cotransportor(KCC2)の細胞体周囲の発現が母子分離により減少していた。一方、KCC2とは反対の働きをし、GABAの興奮性に関与するNa+,K+-2Cl-cotransportor(NKCC1)の発現は母子分離により影響を受けなかった。また、母子分離によりGABAスイッチが遅れており、抑制系の成熟が遅れていることがわかった。さらに、抑制系の成熟が正常に行われないことで、シナプスの刈り込みが正常に行われないこともわかっている。そして、思春期相当の時期に行動解析をおこなったが、母子分離により多動性の増加、認知能力の低下、注意力の低下、攻撃性の増加といった行動異常が認められた。これらの結果から、精神疾患や発達性障害、筋異常疼痛などの発症の予防、改善に抑制系の成熟を標的とした新たな治療法の確立が期待される。
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