研究課題/領域番号 |
17H06986
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
稲垣 春樹 首都大学東京, 人文科学研究科, 助教 (00796485)
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研究期間 (年度) |
2017-08-25 – 2019-03-31
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キーワード | 西洋史 / イギリス帝国 / 西インド諸島 / 法 / 博愛主義 |
研究実績の概要 |
研究一年目である本年度は、先行研究の調査および刊行史料を用いた予備的な調査を進めた。具体的には、西インド諸島の政治、法、博愛主義に関する内外の先行研究と刊行史料を収集し、それらを法と博愛主義の研究枠組みに合致するように整理して、西インド諸島という地域の基本的な特色を把握することに努めた。まず先行研究を用いて奴隷反乱の際の植民地政府と裁判所の関係について整理した。この際の重要な発見は、西インド諸島においては逃亡奴隷が大きなコミュニティーを形成しており、独立した主権を有する政治体としてイギリスの植民地政府との間で条約を結ぶなど、地方統治の権限を植民地政府と分有するような関係にあったことである。この事実はアメリカ史研究においては広く指摘されていることであるが、イギリス帝国史研究の枠組みにおける重要性は十分に議論されていない。しかし部分的な主権を行使する現地人有力者と植民地政府との同盟はイギリス植民地における間接統治の形態として一般的なものであるから、この知見を本研究の歴史的文脈として提示することは研究史上の意義を有する。これを踏まえて、2018年2月には京都大学吉田南総合図書館に所蔵されたマイクロフィルム資料Journals of the Assembly of Jamaicaを閲覧し、ジャマイカにおける奴隷社会と植民地政府との条約などについて具体的な調査を行った。また、19世紀に刊行された西インド諸島の法制度に関する論考や博愛主義者による奴隷制廃止論を収集するとともに、オンライン史料である英国議会史料(Parliamentary Papers)を用いて西インド諸島の法制度について詳細にまとめたイギリス議会特別委員会の報告書などを入手することができた。現在、それらの分析を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定において本年度は二次文献の収集・整理と刊行一次史料の収集・予備的調査に充てることとしており、論文や口頭報告として具体的な成果は出ていないものの、これらの作業は順調に進展している。二次文献の収集・分析については、文献目録やアメリカ史の専門家の助言をもとに体系的に遂行できている。その成果は研究動向論文あるいは研究ノートとして国内の学術誌において公表することを目標としている。また刊行一次史料についても、研究実績の概要に記したマイクロフィルム資料の閲覧に加えて、当時の刊行物の復刻版を購入したり、オンラインデータベースを活用したりすることで、基礎的なものについて検討を開始している。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、二次文献および刊行された一次史料の体系的な検討を継続するとともに、イギリス国立公文書館(The National Archives)および英国図書館(The British Library)における史料調査を行い、それらの研究成果を国内査読誌に投稿する予定である。イギリスでの史料調査においては、まずは先行研究において言及されている植民地省文書(CO)を読み、史料の性格や整理のされ方などの把握に努める。国立公文書館は史料の写真撮影を許可しているが、植民地省文書は膨大であり、全体を写真に撮って日本で読むのは効率的ではないため、関連する巻を現地で読んで、執筆を行いつつ必要な個所だけを写真撮影する。ただし作業に遅れが生じた場合には、調査によって得た情報を元に、国立公文書館のオンライン複写サービスなどを用いて日本において追加の史料収集を行う。また研究を円滑に進めるために、イギリス史、イギリス帝国史、アメリカ史に関する学会・研究会やイギリスでの史料調査などの機会に、国内外の専門家の助言を仰ぐ。
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