イギリス帝国における法と博愛主義の関係を考察するために、19世紀前半のイギリス領ジャマイカ植民地を事例として、奴隷に対する苛烈な支配を継続する白人入植者および植民地総督と、奴隷の待遇改善を求める博愛主義者の対立について検討した。イギリス議会・植民地省の公文書を調査し、以下のようなことをあきらかにした。入植者および総督は、反乱などの緊急事態に対処するために、奴隷に対する強権的な統治体制が必要であると考えていた。博愛主義者は、奴隷に対してもイギリス本国と同様の法の保護が与えられるべきであるとして、入植者と総督を批判した。つまり両者の対立は、これら緊急事態の論理と法の論理の対立を反映していた。
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