これまで,アンジオテンシン受容体結合蛋白ATRAPは,腎尿細管において高い内在性発現レベルを認め,病的刺激下で生じる尿細管1型アンジオテンシン受容体(AT1受容体)シグナルの過剰活性化および一次性ナトリウム再吸収亢進を抑制することで,高血圧の発症を抑制する新規内在性システムとして機能していることを明らかにしてきました.しかしながら,この高血圧発症抑制システムにおいて,尿細管のどの部位のATRAPが寄与しているかはよくわかっていなかった. 今回,近位尿細管特異的ATRAP発現制御マウスの作製に成功し,アンジオテンシン依存性高血圧モデルを用いて詳細な検討を行った結果,近位尿細管ではなく遠位尿細管系のATRAPが主に,高血圧発症抑制の内在性システムとして機能している可能性が高いことを明らかにしました(J Am Heart Assoc. 2019 Apr 16;8(8):e012395).その一方で,現在までに,近位尿細管のATRAPは腎老化や寿命などに関与している可能性があることを報告しており,今回作製に成功した近位尿細管特異的ATRAP発現制御マウスをもちいて,今後のさらなる研究展開を行っていく.
また,アンジオテンシン依存性腎障害モデルを用いて,六君子湯の腎障害に対する効果を世界で初めて検討を行い, 腎機能障害(尿アルブミンや腎機能低下)に明らかな抑制効果は認められなかったものの,六君子湯は腎間質へのマクロファージ浸潤および炎症性サイトカインの発現を抑制した. また,グレリン受容体の主要な下流経路であるSirtuin1も六君子湯により活性化されていることを認めた(). 本研究結果から,六君子湯が慢性腎臓病に対してもグレリン系の活性化を介した抗炎症作用を有している可能性を示唆した(Sci Rep. 2019 Apr 17;9(1):6201).
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