麹菌のゲノムデータベースより、出芽酵母の proton-dependent oligopeptide transporter (POT) である Ptr2p と相同性の高いトランスポーターが15個見出された。これら15個のトランスポーター遺伝子の発現を RT-PCR により調べた結果、3遺伝子が大豆ペプチド存在下で強く発現していた。このうち2遺伝子を、ヒスチジンおよびロイシン要求性を示す出芽酵母 BY4742 株を親株とした ptr2 破壊株で発現させた。His-Leu ジペプチドを添加したヒスチジンおよびロイシン欠乏培地における生育を調べた結果、いずれのトランスポーター遺伝子を発現させた場合にも生育が回復した。そこで、これらの遺伝子を potAおよび potB とそれぞれ命名し、麹菌における発現量を定量 PCR により調べた。その結果、Ptr2p と最も相同性の高いトランスポーター遺伝子である potAは、最小培地を用いた前培養時にはほとんど発現しておらず、大豆ペプチド添加培地で6時間培養することで約35倍に発現量が増加した。一方、potB は前培養の時点で既に高い発現量を示したことから、構成的に発現していることが示唆された。以上の結果から、PotA と PotB がジペプチド取り込み能を有しており、これらは異なる発現制御機構によって遺伝子発現が制御されていることが示唆された。一方、いずれの遺伝子も菌体外プロテアーゼ遺伝子の発現を制御する転写因子 (PrtR) の破壊により、大豆ペプチド存在時における発現量が低下した。また、prtR をアミラーゼ遺伝子プロモーターで強制発現させた場合には、大豆ペプチド非存在条件でも potA の発現量は約13倍、potB の発現量は約4倍に増加した。これらの結果より、いずれの遺伝子も PrtR による発現制御を受けることが示唆された。
|