研究課題
申請者はこれまでに、一枚のホルマリン固定パラフィン包埋切片から12種類のエピトープを免疫組織化学で解析できるmultiplex immunohistochemistry (IHC)ならびにその画像定量化技術image cytometryを開発し、3枚の切片から定量化可能な14種類の免疫細胞の組成や性質を統計解析することで、癌の亜分類や予後と相関する腫瘍の免疫的性質を報告してきた。本研究は、頭頸部癌検体を用いて、これまで解析が困難であった一方、multiplex IHC/image cytometryで解析可能な、免疫細胞の組織上での分布と細胞同士の位置関係を調べ、予後や治療反応性との相関を調べ、バイオマーカー探索の基盤形成を目的とする。平成29年度の当初研究計画では、既存のデータをDiscovery cohortとし、細胞分布形式と予後や腫瘍亜分類との相関を探索し、次年度以降の追加検体における検証への探索的解析を予定した。Discovery cohort内での免疫細胞の位置情報に基づく予後相関解析により、当初の計画通り、腫瘍巣内と腫瘍周囲組織の差異、癌細胞と14種類の免疫細胞の位置関係、分布様式を調べ、予後との相関を解析した。その結果、COX比例ハザードモデルを用いた解析により、腫瘍組織内のTH2リンパ球やCD66b陽性顆粒球と予後不良との相関が示された。これらのデータに基づき、免疫細胞の位置情報・分布の持つ意義を明らかにしていく次段階への基盤的データを得た。この研究成果の一部は、第76回本癌学会学術集会、第30回日本口腔・咽頭科学会総会ならびに学術講演会、第28回日本頭頸部外科学会総会ならびに学術講演会において発表した。
2: おおむね順調に進展している
平成29年度内に予定していた解析が進行し、予後と相関する免疫細胞の局在についての知見が得られている。上記の通り、当初の計画通り順調に進行している。
探索的解析で得られた知見を本研究室で所有する追加検体において検証し、免疫細胞の位置情報・分布の持つ意義を明らかにしていく。1.平成29年度の研究の継続2.検証データセットのためのmultiplex IHC/image cytometry解析。平成29年度分に続き、後半の検体の染色を行う。また、画像取得次第、順次、画像の重ね合わせ処理ならびにImage cytometry解析の画像処理を行っていく。3.免疫細胞の位置情報に基づく予後相関解析(検証)。定量化されたデータを元に、すでに利用可能な予後、臨床病理学的因子情報との関連性を解析し、探索段階で得られた知見の検証を行う。この過程では、各種クラスタリング解析や、群間の差を解析した後に必要となるマイクロアレイ解析に準じたFalse Discovery Rate Adjustmentも併用する。4.免疫細胞の位置情報解析ツールの構築・普及。上記の過程を通じて、解析ツールに改善すべき点が見つかればその都度対処、更新を行う。最終的に使用者親和性を高め、ツールの普及に向けた準備を行う。5.免疫細胞の位置情報解析ツールの構築・普及。上記で得られた知見や開発したツールを学会発表ならびに論文での発表を行い、必要に応じて、業績①と同様に公共レポジトリーを通じた公表を行う。また、別の疾患対象や、他施設から集約したより大規模なコホートで、この手法を応用して、バイオマーカー探索をすすめる計画を立案する。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 2件)
Science
巻: 359 ページ: 97~103
10.1126/science.aan4236