一酸化窒素や一酸化炭素、アンモニアといったガス分子が、生体中では、情報伝達物質(シグナル分子)となることが知られている。シグナル分子を活用し生体機能を制御するためには、ガス分子を大量かつ安定に固定し、望みの位置で外部刺激によって放出できる材料が必須である。このような機能を持つ材料を設計するため、シアノ架橋錯体ポリマーに注目した。プルシアンブルーをはじめとするシアノ架橋錯体ポリマーのCN配位子の一部をこれらの分子に置換することで、容易かつ高密度でシグナル分子を固定化できる。1年度目では、これらのシグナル分子のうち、アンモニア(NH3)分子を含むシアノ架橋錯体ポリマー{MN[MC(NH3)(CN)5]}n(MN、MCはそれぞれ、シアノ架橋配位子のN分子、C分子が配位した金属イオンを示す)を合成した。NH3分子がMCに結合した配位子としてシアノ架橋錯体ポリマーの構造中に取り込まれたことを、各種分光測定により明らかにした。また、MNやMCとして生体毒性の低い鉄イオンを用いていたが、生体内の酵素で用いられている亜鉛イオンや銅イオンといった金属イオンに置き換えた際も、同様の組成や構造を持つシアノ架橋錯体ポリマーが合成できることを明らかにした。 以上の結果を踏まえ、本年度は、まず、NH3分子の放出実験を行った。得られた錯体ポリマーを緩衝溶液に浸漬させたところ、NH3分子が錯体ポリマーから放出されることをインドフェノール呈色法により明らかとした。NH3分子を放出後の錯体ポリマーは、元々NH3が結合していたMCイオンに配位不飽和サイトが発生する点で興味深い。そこで、MCをルイス酸点として用いたリン酸エステルの加水分解反応を行った。その結果、従来のシアノ架橋錯体ポリマーと比較し、本錯体ポリマーが加水分解反応の良好な固体触媒となることが分かった。
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