研究課題/領域番号 |
17H07023
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
浅野 有香 大阪市立大学, 大学院医学研究科, 後期臨床研究医 (10806376)
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研究期間 (年度) |
2017-08-25 – 2019-03-31
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キーワード | トリプルネガティブ乳癌 / アンドロゲン受容体 / 腫瘍微小環境 / 腫瘍免疫 |
研究実績の概要 |
乳癌治療は個別化の時代を迎え,個々のサブタイプに応じた治療標的に基づいた治療が行われている.しかし,ER, PgR, HER2が陰性であるトリプルネガティブ乳癌 (TNBC) では明らかなターゲットがなく,治療選択肢の少なさや生物学的悪性度より難治性乳癌と考えられている.最近の基礎研究では,TNBCは遺伝子発現プロファイルによりさらに7種類のサブタイプに分類されることが示されている. TNBCのサブタイプにおいて,アンドロゲンシグナリングが関与するluminal AR (LAR) は内分泌活性を有すると考えられている.しかしながらTNBCにおけるアンドロゲン受容体をターゲットとした治療は未だ確立されておらず,本研究ではアンドロゲン受容体陽性TNBCにおける新たな治療戦略の確立を検証する.これらの分子機構を腫瘍免疫や上皮間葉移行 (EMT) などの腫瘍微小環境 (tumor microenvironment, TME) の側面から明らかにしていく.本研究における基礎的データは,今後の臨床応用に寄与する可能性があると考えられる. 申請者らは,本研究のテーマである “アンドロゲン受容体 (AR) 陽性TNBCにおける新たな治療戦略の検証” についてCDK4/6阻害剤や抗アンドロゲン剤の有用性を検証するとともに,腫瘍免疫やEMTの側面から分子機構を明らかにしていく.そして実臨床への応用可能なAR陽性TNBCの新たな治療戦略の構築を目的とした基礎研究や臨床研究を推進する.このような革新的な研究アプローチが本研究の特色であり,独創的なトランスレーショナルリサーチが展開されている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,“AR陽性TNBCにおける新たな治療戦略の検証” について,腫瘍免疫やEMT,内分泌感受性の観点より分子生物学的アプローチをすすめ,実臨床に応用可能なTNBCの治療戦略を明らかにする. 申請者らが樹立したAR発現モデルやEMT抑制モデルなどのTNBC細胞株を用いて親株との比較検討をすすめ (TNBC細胞株がluminalタイプに類似した細胞特性に変化し,内分泌活性を獲得するなど),悪性形質獲得や薬剤効果にかかわる機序を解明する.そしてAR陽性TNBCにおけるCDK4/6阻害剤 (palbociclib) や抗アンドロゲン剤 (enzalutamide, abiraterone) の有用性についての検証をすすめる.さらに免疫療法 (抗PD-1抗体,抗PD-L1抗体など) との併用効果も含め,次世代のTNBC治療につながる治療戦略の構築を目指す. EMT抑制モデルはluminalタイプに類似した細胞特性を有していた.またAR強制発現TNBC細胞株 (AR-MDA-MB-231) を作成したところ,AR-MDA-MB-231は内分泌療法やホルモン受容体陽性乳癌に対する新たな分子標的薬として期待されているpalbociclib (CDK4/6阻害剤) に感受性を有しており,これらのTNBCサブタイプに対する新たな治療戦略の可能性を明らかにした.これらの細胞株を用いてメタボロイド解析を行なったところ,EMT抑制モデルやAR-MDA-MB-231はluminalタイプに似た代謝競合を示していた.すなわちTNBCとluminalタイプの乳癌は異なる代謝競合を示し,これらの相違が乳癌の悪性形質獲得に関与している可能性が示唆された. 初年度であり研究結果については,系統だった考察までには至らないが,全体としては今後の研究総括に向けて順調な進捗と思われる.
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は今年度の研究結果をもとに,さらに具体的な研究をすすめていく.現在までの研究を継続し,AR陽性TNBCの代謝競合と免疫微小環境変化についての検証をすすめる.具体的には抗アンドロゲン剤やCDK4/6阻害剤,あるいはEMT抑制作用が報告されている微小管阻害剤 (エリブリン) の修飾による腫瘍免疫微小環境の動的な変化を代謝競合から捉え,分子生物学的に明らかにする.殺細胞性抗癌剤,分子標的治療薬,内分泌療法,免疫療法など,これらの組み合わせにより更なる効果が期待できる治療選択肢を検索する (併用療法の可能性の検証).
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