研究課題/領域番号 |
17H07025
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
中屋 愼 大阪府立大学, 生命環境科学研究科, 客員研究員 (90736886)
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研究期間 (年度) |
2017-08-25 – 2019-03-31
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キーワード | グルコシノレート / クレソン / 脂質代謝改善 / 分子種分析 |
研究実績の概要 |
クレソン(Nasturtium officinale)は健康増進効果の高い微量成分と必須栄養素を豊富に含む魅力的な野菜である(Prev Chronic Dis. 2014 Jun 5;11:E95)。近年,クレソンが脂質代謝改善効果を持つことが報告されたが,主因となる機能性成分や作用メカニズムは明らかでなく,普及の妨げとなっている(日本栄養・食糧学会誌 2014 67, 4, 185-191)。本研究は,アブラナ科植物に特徴的な機能性成分であるグルコシノレート(GL)及びその誘導体に着目し,クレソンの脂質代謝改善効果を検証することを目的とする。 初年度はクレソンに含まれるGLの誘導体分子種を明らかにすることを目的とし,まず,クレソンの超臨界二酸化炭素抽出法(SFE)とGL及び誘導体の一括定量分析法を確立した。次に,クレソン可食部のSFE抽出物に含まれるGL誘導体を定量分析した。GLは酵素により分解された後,残基を有したままイソチオシアネート(ITC)などに構造変化することが知られている。分析の結果,フェネチル基(PE)を残基にもつPE-ITCが33 μmol/g(凍結乾燥物当り)と主要な分子種であることがわかった。さらに興味深いことに,2分子のPEからなる1,3-ジフェネチルウレア(PE-UR)が12 nmol/g存在することがわかった。このような構造をもつウレアはヒト可溶性エポキシヒドロラーゼ(sEH)の阻害活性を有するとの報告があることから,PE-ITCだけでなくPE-URも脂質代謝改善に寄与する可能性が考えられる(PLoS One. 2017 May 4;12(5):e0176571)。特に,体内に蓄積されるトリアシルグリセロール(TAG)の分子種存在比の変動に興味が持たれる。そこで,二次元HPLC-UV-CAD/MSnを用いたTAG分子種網羅的分析法を確立した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
SFEでは,モディファイヤーとしてエタノールを加え抽出溶媒の極性を制御することにより,目的物質の選択性と抽出効率を高めることができた。クレソン凍結乾燥粉末を試料とし確立した抽出法は従来の有機溶媒抽出法を比較して必要試料量や抽出時間,作業効率など多くの点で優位性が認められた。一方で,新鮮葉を試料とする場合さらに大容量の抽出管が必要であることがわかった。引き続き検証を行う予定である。 GL及び誘導体の一括定量分析法の開発では,検出器としてCharged Aerosol Detector(CAD)とMSの併用を想定していたが,ITCなど比較的低沸点の化合物はCADでの応答性が悪く定量が不可能であった。そこで,使用するシステムをHPLC-MS2とし,まず文献やデータベースを参考に様々な残機のITCについて定性分析を行った。次いで,検出されたITC分子種と同一残基の誘導体を探索し,検出された分子種をSelected Reaction Monitoringにより定量した。標準品には市販試薬あるいは自身の合成品を用いた。この一括定量分析法は構造や物理的性質が大きく異なるGLやITC, イソシアネート,URを1インジェクションで定量分析するもので,類似手法の報告のない新規性の高い分析手法である。 最終年度に計画している動物実験のうち,ラットを用いたGL及び誘導体の体内動態に関する研究の動物実験計画書を所属機関 動物実験倫理委員会に提出し承認された。現在,動物実験の準備を進めている。この動物実験により得られる結果を元に,病態モデルマウスに対するクレソンSFE抽出物の投与実験の条件を策定する計画である。
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今後の研究の推進方策 |
初年度に実施した研究の結果,クレソンにはGL及びその誘導体としてPE-GL,PE-ITC,PE-URが含まれることがわかった。PE-URはヒトのsEH阻害活性を有するとの報告があり,クレソンの健康増進効果に寄与している可能性が考えられる(PLoS One. 2017 May 4;12(5):e0176571)。最終年度ではPE-ITC及びPE-URに着目し,クレソンの脂質代謝改善効果を動物実験により評価することを目的とする。 PE-URの生体内における合成経路は明らかではなく,PE-GLやPE-ITCが生体内で化学反応することにより生成する可能性が考えられる。そこで,ラットに対しこれら3化合物をそれぞれ経口投与し,投与後の各化合物の血中量を初年度に確立した一括定量分析法により継時的に調べることで,化合物の血中移行速度及び構造変化の有無を評価する。次に,脂質代謝異常モデルマウスに3化合物及びクレソンSFE抽出物をそれぞれ長期間摂取させ,脂質代謝改善効果に着目した解析を行う。特に,肝臓や血漿に蓄積されたTAGの総量と分子種の存在比を初年度に確立した網羅的分析法により調べ,脂質代謝改善とTAG分子種の相関について検討する。また,TAGの蓄積や分子種存在比に影響を与える遺伝子について肝臓での発現量をreal-time RT-PCR法により調べる。さらに,3化合物及びクレソンSFE抽出物のヒトsEHに対する阻害活性をin vitroで評価し,初年度の研究より明らかとなった各化合物の含有量と合わせて考察することにより,クレソンのsEH阻害効果の有無及び機能性成分を明らかにする。得られた知見を元にクレソンに含まれるGL及びその誘導体の脂質代謝改善効果とその作用メカニズムを総合的に考察する。
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